トレッキングを始めて、毎日雨が降っている。 1日中降っているわけではなく、午前中は晴れているのだが昼過ぎには雲行きが怪しくなり始め、夕方にはザーッと降り始めるのだ。 夕方までには宿に辿り着いているので雨に打たれることはないのだが、毎日雨だと気が滅入る。
「サンタさん、毎日雨降ってますけど、もう雨季ですか?」
「雨季じゃなくても雨は降ると思うよ」
うんまぁ、そりゃそうだが。それでも毎日降るのはさすがにやめてほしいな。
正午を回った頃、ラムジュラ・バンジャン峠の近くにあるロッジに到着。 そこで昼食と摂った後、外に出て遠くの空を見ると雨雲がかなり厚くなっていた。
「今日はもう歩かない方がいいかもしれない」 サンタさんが言う。 この日は、ここに宿を取ることにした。
霧の中を歩く男の子
夕方になると、周りに霧が立ち込め、一気に気温が下がり始めた。
かなり冷え込んできたな……。これは凄い雨が降りそうだ。
そう思った途端に、大粒の冷たい雨が激しい音を立てながら地面を打ち付けてきた。
うひゃー、やばいやばい。
急いでロッジに避難する。
寝室に行ってもいいのだが、そこはベッドが置いてあるだけの簡素な造りの部屋なので、やたら寒いのだ。 同じロッジに泊まっているフランス人のカップルと火の明かりを頼りに、トランプをしながら時間を潰す。
「こっちに向かっている途中に急に霧が出てきたから、びっくりしたよ。近くにロッジがあって助かった」 カップルの男性は笑いながら言っていた。
翌朝、凍てつく寒さに目が冷めた。
「ぷぎゃー。寒いー」
石窯のある台所に向かおうと外に出ると、一面銀世界だった。 夜中の間に雨は雪に変わり、一気に降り積もったようだ。
「グッドモーニング」
台所に向かうと、石窯の前に腰掛けているフランス人のカップルが声を掛けてきた。 サンタさんも石窯の前で丸くなっている。 どうやら俺が1番遅起きのようだ。
「でもグッドなモーニングじゃないよな、コールドなモーニングだ」と冗談をカップルの男性は言う。
まだ雪が降り続いているが大丈夫だろうか。
「今日は歩くの危ないかもしれないね」 サンタさんが言う。
「やっぱり危ないですか?」
「雪で滑って、谷底へ落ちてしまうかもしれないよ」
「そりゃ嫌ですね」
しばらく天気の様子を伺うことにした。 雪がまた激しく降るようなら、ここにもう1泊することになる。
数時間後。 雪は止み、空を覆っていたぶ厚い雲も薄くなってきたので出発することになった。
小さな雪玉を作って転がしながら、ラムジュラ・バンジャン峠に到着。 茶店で休憩をし、峠を下っていく。
ランタントレッキングでは、この靴でも問題無かったので今回のトレッキングでも大丈夫かと思っていたが、雨や雪が降った道はかなり歩きづらい。 そのうえ、防水ではないので溶けた雪が靴の中に染み込んでしまい、足が冷たい。
「その靴じゃ標高が高いところは危ないよ」
ナムチェに着いたら、そこでトレッキングシューズを買えとサンタさんに忠告される。
500m程標高が下がると積もっている雪の量も減り、雪解け水を含んだ地面はぬかるみ、更に滑りやすくなっていた。 慎重に歩いていっても何度も滑ってしまう。
もうお尻がビチャビチャである。
うぅ……、お尻が冷たい。もう歩きたくねー。
そう思いながら、急斜面の道に差し掛かった時、ズルッと豪快に足を滑らせた。
ギャァァァァァアアアアアアアッ!!
止まろうと思っても止まらないっ!どうにもならんっ!制御不能っ!
誰か助けてェェェェェェェェェェェェッ!!
サンタさんが急いで歩み寄ってくる。
「………大丈夫じゃないです」
怪我はしていないが、全身泥まみれで、ずぶ濡れである。
うぅ……、冷たいー、死ぬー。
ぶるぶる震えながらジュンベシに到着。
ジュンベシを出発する朝、洗濯物を干してあるロッジの中庭に向かった。
あれ、タオルが無いぞ?
他の衣類は干してあるのにタオルだけ見当たらない。
風で飛ばされたか……。いや洗濯バサミでしっかりとめてあるのでそれはない。現に他の洗濯物はあるし。
宿の人間が間違えて取り込んだのかと思い、宿の洗濯物を漁ってみるが、やはり見つからない。 そのことをサンタさんに言うと、「他のトレッカーが持っていったんだと思う」と答えた。
うんうん悩んでいるとサンタさんがこう言った。 「もうとっくに出発してるよ。タオル盗んだ人は」
そうかっ!そうだったのか! 確かにそうだよね。
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超インドア派。妄想族である。立ち相撲が結構強い。
好きなTV番組は「SASUKE」。