翌朝。 宿のスタッフに近くにゲストハウスはあるのかと訊いてみた。 「このホテルを出て右の通りに行くとゲストハウスがいくつかあるから尋ねてみるといい」
そう言われたので、バックパックを背負い、教えてもらった通りを歩いていく。 2分ほど歩くと、赤い看板が取り付けられた一軒のゲストハウスを見つけた。 看板には「Lawang Guesthouse」と書かれている。
ここにしてみようか……。とりあえず値段聞いてみよう。
そう考えている時に、前方から水色のカーディガンを着た女の子が歩いてきた。 ミルクの入った瓶を抱えている。
「ジュレー」
ラダッキ語で挨拶をすると、女の子も「ジュレー」と挨拶を返してくれた。
「あの…部屋空いてる?」
「泊まりたいの?ついてきて」
黒い鉄の扉をくぐり、宿の敷地内に入ると庭一帯に野菜畑が広がっていた。
かなり広い庭だなー。
女の子に案内されて、宿の中に入る。 部屋は合計3部屋しかないが、どの部屋もホットシャワーとトイレが付いており、しかもかなり広くて綺麗に掃除されてある。
いい宿だなぁ。(o・∀・o)
女の子に値段を尋ねてみると、彼女は1泊500ルピーと答えた。
「500ルピー?ちょっと高いなぁ……。別の宿にするよ」
そう言うと女の子は「400ルピー」と値段を下げてきた。
「うーん、400ルピーでも厳しいかな。別の宿を探すよ」
そう言って部屋を出ようとすると、女の子は更に値段を下げてきた。
「じゃあ300ルピー。ラストプライス」
「300ルピーか。OK、ここに泊まるよ」
交渉成立。この部屋で300ルピーは安いほうだろう。
部屋の窓を開けて空を眺める。
すごく静かだ……。いい宿だなここ。
「ウェルカムティー」 女の子がカップにミントティーを入れて出してくれた。
「ありがとう。君の名前は?」
「私の名前?イトナム」
「イトナムね、俺は大悟、よろしく。宿には君一人?」
「うん。宿のお父さんとお母さんなら今は働きに出てるよ」
話を聞くと、平日の昼間はイトナム一人だけで宿を切り盛りしているそうだ。客室の掃除をしたり、洗濯物を干したり、料理の準備をしたりと、しっかり者の女の子である。 他にイトナムより年下の男の子が2人いて、その子たちは今は学校に行っているとのこと。
レーの町を散策してみた。 レーは標高約3500mの高地に位置しており、気候的にも文化的にもチベット文化が根強く息づいている。宗教もチベット仏教、イスラム教、ヒンドゥー教の人々が同じ地に暮らしており、まさにここはインドの中の異境だ。
レーの町には大きなポログラウンドがある。 そこに足を運ぶと、ちょうどサッカーの試合が行われていた。大勢の観客が試合応援に熱中している。
こんな高地でよくあんなに走り回れるもんだなー。
低地に住む人間が、いきなりこんな場所でサッカーなぞしようものなら、すぐに酸欠でぶっ倒れてしまうだろう。
レーの旧市街は昔ながらの土のレンガで造られた建物がまだ残っており、井戸で水汲みをして洗濯をする人などが多い。建物が複雑に入り組んでおり、まるで迷路だ。 方向音痴の自分にとっては何処がどっちの道だかわけわからん。
道わからねぇ~。でもドラクエの世界みたいで面白いなここ。
そんなことを思いながら歩いていた時、レーのチェックポイントで出会った日本人3人組にばったり遭遇した。
「あ、こんにちはー」 と挨拶される。
「あ、どうも」(・ω・)
そういえば深夜の3時過ぎにバス停に降ろされていたけどどうしたんだろう?
そのことを尋ねるとあの日は野宿したとのこと。
「はぁー。そりゃ大変でしたね」
「えぇ、大変でした。真っ暗だし寒いし……。何処の宿に泊まってるんですか?」
「ここから15分から20分くらい歩いた場所にある、緑がたくさんあるところですね」
「水出ますか?」
「出ますけど…?」(・ω・´)
「そうなんですか。自分たちが泊まってる宿、水が出ないんですよ」
「野宿してたどり着いた場所が断水って罰ゲームですやん」
「だから水を求めて今から移動しようですわ」
「じゃあまた後ほど」 と言って日本人3人組は離れていった。
その後、旧市街をふらふら散策して自分も宿に向かった。 宿への帰り道、先ほどの日本人3人組とまた遭遇。それに加えて中年の日本人男性も一人いた。
「おや、また会いましたね」
「あぁ。どうも」
「何されてるんですか?」
「宿を探しているんですけど部屋が一つしか空いてなくて……。他に宿知ってますか?」
「あぁそれじゃ俺が今泊まっている宿、部屋が2つ空いてる…というか俺以外宿泊客いないんですけど、どうですか?」
「じゃあ案内してもらってもいいですか?」
というわけで宿に案内しながら全員に自己紹介。 髪の毛の上半分が金髪の男性アツシさん。おっとり雰囲気の女性クロさん。半年くらい散髪してないんじゃなかろうかと思わせるほどボサボサに伸びきった頭の宏貴さん。自称「長老」、中年の男性リョウさん。全員世界一周を予定している方々である。
ポログラウンドでサッカーの試合が行われていた。 先日もここで試合が行われていたが、今日はその時の何倍もの盛り上がりである。
グラウンドの左側にある建物には幕が張られ、テレビカメラも数台配置。試合の実況までされている。 観客もグラウンドの外側にずら~っと並び、試合観戦に熱が入っている。
どうやら今まさに、決勝戦が行われているそうだ。
とりあえず俺も試合観戦しようかな。
アイスでも食べながら試合観戦しようと思い、アイス売りのおじさんに声を掛ける。
「おっちゃん、アイスいくら?」
「アイス?後にしてくれ。今試合見てるんだから」
おっちゃん、ちゃんと仕事してくれ。
アイスのことは諦め、おとなしく試合観戦を始める。
試合は大盛り上がりだ。 が……、両チーム共にラフプレーが多く、結構な数のファウルが量産されている。コートはもちろん芝生ではないため、勢い余って転倒し、膝や肘が擦れて流血している選手も少なくない。
うへー、痛そう…。(´д`lll)
自分が観戦を始めたとき、試合は1-0で水色のユニホームのチームがリードしていた。 このまま前半終了かと思われた時、試合が動いた。 前半終了間際、水色のユニホーム側のチームがペナルティエリア内でのスライディングでファウルを取られてしまう。
「おい審判!今のはファウルじゃないぞ!」
ファウルを取られた選手が審判に詰め寄る。
「今のはファウルだ」
審判はもちろん選手の抗議は受け付けない。 だが納得できない選手は「どーして今のがファウルになる!」と審判に抗議を続けた。
「うるさい!レッドカード!」
審判の胸ポケットから高々とレッドカードが掲げられた。
「いや審判!レッドはないだろう!」
水色のユニホームの選手たちが声を上げる。
しかし判定は覆らない。
「おい審判!それはないだろう~!」
周りの観客たちがグラウンドにゴミをどんどん放り投げていく。
『会場にゴミを投げないでください。ゴミを投げないでください』
アナウンスが流れるが、観客はどんどんゴミを放り投げる。
『……ゴミを投げないでください。………投げんなって言ってんだろうがァァァァ!』
実況席の人も声を荒げる。
やばい…この試合むっちゃ面白い……(笑)
俺はニヤニヤしながら目の前の光景を眺めていた。
そしてPK。 紺色のユニホームのチームが確実にこれを決めて前半終了。
ハーフタイムにはグラウンドにロバが侵入してきた。ハーフタイムショーか何かだと思っていたが、どうやらマジの侵入のようだ。
必死に制止させようとするが、なかなか捕らえられない。後半開始直前までロバはグラウンド内を走り回っていた。
後半は双方のチーム、互いに決定機を決めきれず、延長戦に突入。 それでも決着がつかず、PK戦にもつれ込んだ。
結果は紺のユニホームチームが勝利。 かなりの盛り上がりようだった。
ラダックに来て1週間が経過した。 アツシさん、リョウさん、クロさんの3人はマナリに戻り、宏貴さんはまだラダックに残るそうだ。 宿泊費節約のため、宏貴さんと部屋をシェアすることになった。
宏貴さんとはレーの町を出歩いたり、宿の子供達と遊んだりと、2人で楽しくやっていた。
「宏貴さんはあとどれくらいレーにいるんですか?」
夜に部屋で寝転がりながら話をする。
「うーん、どれくらいかなー。まぁあと3、4日ぐらいだと思うよ」
「あー、じゃあまたこのゲストハウスの宿泊客は俺1人になっちゃいますね」
この宿に1週間滞在しているが、自分たち以外にここを訪れる宿泊客は皆無である。レーの中心地から少し離れている場所にあるので、中々客が訪れないのだろう。 まぁ宿の主人と奥さんは日中は働きに出ており、ゲストハウス経営は副業でやっているようなので生活には全く困ってないそうだ。
「大悟君、大富豪したくない?」
「トランプのですか?したいですねー」
「トランプ持ってるんだけどさ、2人でやってもつまんないよね」
宏貴さんがバックパックからトランプを取り出しながら言う。
「アツシたちが出発する日、ずっとやってたんだけどやっぱめっちゃ盛り上がるよね大富豪」
「大富豪やってたんなら俺も誘ってくださいよ……」
「だって大悟君ずっと単独行動してそうだったから」
「大富豪か~。高校生の時昼休みにしょっちゅうやってましたよ」
というか、それ以外に学生時代の良い思い出がない(泣)
「もっと別なことに青春を謳歌しろよ」
「リア充とは逆向きの人生を順調に歩んできましたからね。そしてこれからも歩み続けることでしょう」
しかし宏貴さんが旅先での重要暇つぶしツールトランプを持っていたとは。 これは是が非でも大富豪をやりたくなってきた。
2人で大富豪をやってもつまらないので、宏貴さんと話し合いをし、大富豪ができる日本人探しをすることにした。
翌日、日本人大捜索が始まった。
まずはメインバザールを歩きながら日本人らしき人がいないか周りを見渡す。
「しかしラダックに来てまでトランプゲームをやるって俺たちは何をしにきてるんでしょうか?」
「まぁ旅にも休息は必要って言うじゃん。大富豪で鋭気を養おう」
うーむ……というか、もし日本人を見つけたとしてもどう話しかければいいんだ?
仮に日本人の旅行者に会ったとしよう。
そして第一声が 「すいません、大富豪やりませんか?」 だったら変じゃなかろうか。
なんなんだ、この変な日本人2人組は……? と変質者に間違えられる可能性もある。
今までの人生ずっと「あなたは変わってるね。変人だね。社会不適合者だね」と言われ続け、20代前半にして既に人生に嫌気が指しているのに、外国に来てまで変人扱いされたならば俺は生きる希望を失ってしまう。
かといって、 「こんにちはー。日本の方ですか。いつレーに来られたんですか?へ~2日前。何処に滞在されてるんですか?」 とこんなありきたりな会話から始まり、大富豪をするまで打ち解けるには大変な時間を費やすだろう。
………まぁ日本人を見かけたらその時に考えればいいか。
メインバザールを歩き回ってみるが、日本人らしき人は全く見当たらない。
「日本人いないですね」
「そりゃすぐには見つからないだろ。タイのカオサンやカンボジアのシェムリアップじゃあるまいし」
メインバザールから旧市街に向かい、迷路のような通りを歩いていく。
あ、そういえばこの近くに地球の歩き方に載ってる老舗のゲストハウスあったな。
「この近くに地球の歩き方に載ってるゲストハウスありませんでしたっけ?」
「うん。今の宿に来る前に泊まってたよ、その宿に。断水中だったというね」
「歩き方に載ってるんだったら、深夜にこのゲストハウスの前で待ち伏せしてれば日本人現れるんじゃないですか?」
「ただのむっちゃ怪しい奴じゃん……」
「そして、大富豪やりませんか?と声をかける」
「マナリから丸一日かけてクタクタなのに相手してくれるわけないだろ」
そんな会話をしながら旧市街を歩いていく。
そして数時間が経過。
日本人全く見つからねぇ…。
「いないなー。日本人」 そう言いながら宏貴さんは日陰に腰をおろす。
「うーん。今はこの町に日本人旅行者あんまりいないんじゃないですか…」
「かもねー」
「というか今更なんですが俺、超絶人見知りなんで、初対面の人に「いきなり大富豪しませんか?」とか言えないですよ」
「じゃあなんで日本人探してんだよ!」
「声をかけるのは宏貴さんにお任せします」
「俺任せかよ!」
結局日本人は見つからずじまいで宿に戻った。
夜が更ける頃、ギュルルルルとお腹を下した。
朝が来るまでに3回のトイレ使用。
うーむ、少し腹の調子が悪いな……。
まぁ寝ときゃ治るだろ。
そして朝。
「大悟君どうする?今日も日本人探しする?」
朝シャンをしていた宏貴さんはボサボサの濡れた髪をタオルでワシャワシャ拭いている。
「うーん…別に本格的に探さなくてもいいでしょ。町を散歩して日本人を見かけたら声をかけましょう」
というわけで、宏貴さんと一緒にレーの町を散策することになった。
「そういえば、たまに日本人か韓国人か中国人か微妙に分からない時あるじゃん。そんな時、一発で日本人って分かる方法があるよ」
歩きながら宏貴さんが言う。
「どんな方法ですか?」
「会釈すればいいんだよ、会釈。すれ違う時にこっちが会釈して向こうも会釈してくれれば日本人」
「なるほどー」
そんな簡単な手があったとは。盲点だった。
宿泊している宿から道沿いに歩いていき、大通りに抜けるところにある建物の2階部分に「和カフェ」という日本語の看板が設置されてある店がある。
レーに来た当初から、気にはなっていたので足を運んでみた。
数人の女性が店内にいるが、全くやる気が感じられない。 俺と宏貴さんが椅子に腰掛けても、テーブルに座ったままスマホを弄っているだけである。
俺たち一応お客さんだよな……。
まぁ日本のように高クオリティな接客は別に望んでいないけど。
バックパッカーのような貧乏旅行者ではなく、ツアーでラダックを訪れるような短期旅行者がこの店を訪れる可能性も無きにしも非ずだ。
もしそうなったら多分こうなるぞ。
「あー腹減ったー。外国来てるけど日本食が食いたいわぁ……」
「こんな場所に日本食が食べれる店なんてあるかい……」
「それもそうかぁ……。……はっ、あれ見てみぃ!日本語の看板やんけ!」
「マジやん!日本語の看板あるやんけ!じゃあ多分日本食食えるやんけ!ここ入ったろ!」
店に入る短期旅行者たち。
「なんやこの店!全く接客せぇへんやんけ!メニュー無いやんけ!」
「姉ちゃんメニューはどこにあるんや?」
「タパポナホチジィギ……」 従業員携帯ぽちぽち。
「この店看板日本語なのに日本語通じんやんけ!店員携帯ぽちっとるやんけ!」
「こんな店二度と来ねぇわ!最悪やんけ!」
って、なってしまうぞ。 もうちょっとだけ、やる気を出したほうがいいと思う。
メニューはあるのか彼女たちに尋ねると、キッチンの奥のほうからぶっきらぼうにメニューを渡された。渡されたメニューに目を通す。 するとだ。 『SOBA』『OKONOMIYAKI』 という品が記載されているではないか。
「宏貴さん、蕎麦とお好み焼きがあります!」
「ほ、本当だ……!」
ラダックで日本食にめぐり合えるとは思ってもみなかった。
しかし自分はそんなに腹をすかしてはいなかったので、『ラダッキローカルスープ』というものを注文。
宏貴さんは蕎麦を注文した。
店内からは旧レー王宮が一望できる。
なかなかいい立地だなこの店。
椅子に腰掛け、ラダックのそよ風を感じていると、キッチンから醤油を煮る香ばしい香りが漂ってきた。 鼻先から吸い込む香りが、身体に刻まれた我が日本人のDNAを刺激する。
あ~ええ匂いじゃ~。久しぶりに嗅いだな。この匂い。
「大悟君、めっちゃいい匂いがするよ」
「これは期待できるんじゃないですか」
やっぱり自分も蕎麦を注文すればよかったかな……。
そう思っていると、注文した『ラダッキローカルスープ』が運ばれてきた。
片栗粉をお湯で溶かしたかのような白く濁ったスープである。
「いただきまーす」 スープをすする。
不味ッ!!
「酸っぺぇ!」
なんというか酢と片栗粉を混ぜたような味である。 乾燥したヤクのチーズを溶かしたものらしい。
うーむ……。これはあまり自分の舌に合わないな……。
しばらくして宏貴さんが注文した蕎麦が運ばれてきた。 見た感じ、麺の1本1本がかなり短いことを除けば普通のざる蕎麦である。
だが、つゆは熱々のソイソースだった。
ざる蕎麦なのにつゆが熱々とは……。
さっそく宏貴さんは蕎麦をつゆに浸し、口に運ぶ。
「どうですか。蕎麦の味は?」
「……うん。自分で作りたい」
……どうやらあまり美味しくないようだ。
和カフェを後にし、宿に戻った。
夜。
ギュルルルルルルルルルッ!
はぅあッ!
なんの前触れもなく、強烈な便意が襲ってきた。
「やばいッ!生まれる!」
急いでトイレに駆け込み、すぐさまズボンを下ろす。 便座にまたがり肛門の力をフッと緩めると、大量の液状のブツがドバドバ流れ出てきた。
うぁい。久々のバナナジュースだ(号泣)
インドに来た時からいずれ来るだろうと覚悟はしていたが、やはり辛いものである。
しかし比較的清潔なラダックで食当たりになるとは思わなかったな……。
トイレから出て、ベッドに横たわる。
しかし30分後。 またもや我慢できないほどの強烈な便意が体内を駆け巡る。
ギュルルルルルルルルルッ!
はぅあッ!
そしてトイレに閉じこもる。
「大悟君大丈夫?」
トイレに入り浸っている俺の様子を伺う宏貴さん。
「全然大丈夫じゃないです」(号泣)
「湧き水なんか飲んだりするからお腹壊すんだよ」
「現地の方が飲み食いしてるものは基本的に大丈夫というのが自分の考えなんで」
「その結果今大変なことになってんじゃん」
「水が原因なのかなぁ。あの酸っぱいスープが原因なんじゃないかなぁ…」
ギュルルルルルルルルルッ!
はぅあッ!
そして夜が明けた。
調子は相変わらず芳しくない。むしろどんどん悪化している。
すげー気持ち悪りー。動きたくねー。
微動だにせず、ずっとベッドに横になっていたいが、何か食べないと体が参ってしまう。
ふらふらした足取りで外に出て、卵とパンを購入してきた。 宿のキッチンを借りてゆで卵を作り、パンと一緒に食べた後に抗生物質を飲んだ。
しかし、かなり胃が気持ち悪い。吐き出してしまいそうだ。
しかも腹部がどんどん膨らんできている。なんか生まれそうな勢いだ。
俺、妊娠したのか……。
どうやら自分は稚児を孕んでしまったようだ。 この気持ち悪さも、つわりというものなのだろう。
妊婦さんの気持ちがよく分かるよ……。
こりゃ動きたくないわ。寝たきりになるわ。
俺氏、人類史上初の単為生殖者である。
「大悟君相当やばいね」
ベッドで屍のように横たわっている自分に宏貴さんが言う。
「うぅ……。綺麗なお姉さんが膝枕しながら頭を撫で撫でしてくれたらすぐ回復するんですけど」
「すげー都合のいい体だな」
「うぅ……。宏貴さん、俺に膝枕してくれる綺麗なお姉さん連れてきてください」
「綺麗なお姉さんを見つけたとしてもどうやって連れてくんだよ」
「うぅ……。「日本が誇る超絶イケメンが深刻な病を患ってます。しかし膝枕をして頭を撫で撫でしてあげると完治するかもしれません。あなたの太ももだけが頼りです。どうか彼に膝枕してやってくれませんか」と頼めばいけます」
「それより早く病院行けよ」
「うぅ……。病院ですか……。この至上最強の気持ち悪さを通り越してくれれば治るような気がするんですけゲ~~~ップ」
むっちゃ凄いゲップ出てきた。 牛のゲップに匹敵するほどのゲップ出てきた。
「大悟君、そのゲップやばいよ。絶対重症じゃん」
「うぅ……。とりあえず明日丸一日安静にして治らなかったら病院に行ゲ~~~ップ」
「ゲップやべぇな……」
翌日もゆで卵とパンを食べて抗生物質を飲み、ひたすら横になっていた。 というか、それしか出来ない。
動くのがマジで辛い。
あぁ気持ち悪い……。常に気持ち悪すぎて気絶寸前だ……。
しかし相変わらず数十分おきに激しい便意がやってくるのでトイレに駆け込む。
もう出てくるのは限りなく透明に近いイエローの液体だ。
……なんか肛門がヒリヒリしてきたな。胃液がそのまま出てるんじゃないだろうか。 それに今出したブツ、ゆで卵の匂いがするぞ……。消化されずに出てるんじゃないかこれ……。
尻を拭いて便座からフラフラと立ち上がる。
刹那、急激に吐き気がこみ上げてきて、胃の中のものが逆流してきた。
「ガハッ!ゲホッ!オエッ!」
コロンッ。
ΣΣ((゚д゚))
飲んだ抗生物質が、ほぼ原型を留めて吐き出てきた。
胃腸が全く機能していない。
今の俺の胃腸はただの管と化している。
「こりゃ病院コースだよ」 宏貴さんが言う。
「そうですね……」
鏡を見るとそこには頰がげっそりと痩けた自分の姿があった。
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