もう1度トレッキングするか。
さて、次は何処のコースを登ることにしようか。 宿に置いてあるネパールのガイドブックを読みながら考える。
エベレストトレッキングはカトマンズから標高2840mに位置するルクラまで飛行機で向かい、そこからトレッキングを始めるのが一般的だ。 だが自分は山中にある村も訪れてみたいと考えたので、カトマンズからジリという村までバスで移動し、そこから歩いてルクラまで向かいエベレストトレッキングコースのピークまで目指すことにした。 約1ヶ月のトレッキングの予定である。
トレッキング出発の日。 ジリ行きのバスの出発時間に合わせて早起きをする。 「トレッキング寒かったら使って」と、ホッカイロを3つ頂いた。
「じゃ、メグミさん。くれぐれも死なないように気をつけて旅してください」
「ありがとー。大悟君も気をつけてね。あとドードゥポカリの写真facebookにアップしといてね!」
そう言ってメグミさんは一足早く、宿を出て行った。
ちなみに、ドードゥポカリとはエベレストトレッキング上のゴーキョ(標高4750m)という場所にある大きな氷河湖のことである。
さて、俺も出発するか。
バス乗り場でガイドのサンタさんと一緒にバスに乗る。 サンタさんは自分と同い年のネパール人だ。
カトマンズからジリまでバスでおよそ9時間。
ジリまでの車道はとてつもない悪路で、バスが上下に揺れ、体が浮き上がり頭が天井に強打することも何度かあった。
嘔吐する人間も続出である。
ジリはこじんまりとした村で、なかなか居心地が良さそうな村だった。 まだトレッキングを始めずに、この村に連泊したいという気持ちに駆られたが、トレッキング期間はカトマンズ出発日から1ヶ月とガイドの専属契約を交わしていたので、いきなり連泊はまずい。 これから先、気に入った村に連泊する機会が絶対あるだろうと思い、ジリには1泊のみしてトレッキングを始めることになった。
ジリのバス車道が途切れるところから山道が始まる。 基本的には日本語で、たまに英語でサンタさんと会話しながら歩いていく。
「大悟さんは恋人いるんですか?」
サンタさんは唐突にこんな質問をしてきた。 いきなりハードな質問をしてきたなサンタさん。
「えぇいますよ、一応。ゲームの世界で姉ヶ崎 寧々先輩という女性とお付き合いしています」
「は?」
何言ってんだこいつ?みたいな顔をするサンタさん。
「ふーん、でも実際に触ったり抱いたりできないんだよね。つまらないねそれ」
「まぁそりゃゲームだからね」
でもそれはそれで、ゲームならではの楽しみ方があるんだと語っておいた。
もしまたネパールに来ることがあれば、その時はサンタさんに3DSと専用ソフト「NEWラブプラス+」をプレゼントしてあげよう。 ネパール全土にラブプラスが浸透するのも夢ではない。
「ってことは大悟さんは恋人いないってことだね」
そう言いながらサンタさんは顔をにやつかせる。
「そうですね。サンタさんはいるんですか、彼女?」
「いるよ」
あ、いるんだ。
「でも会ったことはない」 サンタさんはそう付け加えた。
……ん?
「会ったことはないのに恋人なんですか?」
「電話かメールをすることはあるけど会ったことはないよ」
「ネパールではよくあることだと思うよ」 とサンタさんは言う。
はぁ……。1度も会ったことがない、顔も知らない相手が恋人という関係になれるのかネパールは。
それって日本のメル友みたいな関係だと思うが。
その条件だったら俺だって恋人はいるぞって言い張りたかったが、思い返してみると、俺が電話やメールをする女性といえばお母さんだけである(号泣)
ジリからルクラへ向かうこのコースは登ったり下ったりの道の繰り返しだ。 しかし、山の人々の生活に触れられるし、普段のトレッキングとは違った雰囲気が味わえる。
「何を話していたんですか?」
「道を尋ねたんです」
サンタさんが答える。
「ん?道を尋ねたって、サンタさんはこのコース歩いたことないんですか?」
「ないよ」
「ないんかいっ!」
「初めて来たよ。このコース」
それだったらトレッカーが多く集まるルクラの先にあるナムチェという村でガイドを雇ってもよかったなと思う気がしてきたが、ネパール語で現地の方に道を尋ねたりできるので、まぁいいか。 それでも迷うほどの複雑な道ではない、ほとんど1本道であるが。
正午には、シヴァラヤの村に到着。 ここで食事休憩をして次の村を目指してもよかったが、そんなに急ぐ必要はないので、この村に1泊することにした。 少し村を散策し、夕方、宿に戻るとサンタさんが尋ねてきた。
「大悟さんはお酒飲めますか?」
「はい、飲めますけど」
「じゃあ一緒に飲みに行こう」とサンタさんに案内された場所は、ただの民家だった。
「村のバーだよ」
サンタさんがそう言い、民家の中に入る。 簡素な造りの家だが、凄く落ち着く。
「飲み物は……、ロクシーしか無いけど。冷たい方か熱い方どちらがいい?」
そう言われたので、熱いロクシーを注文した。 陶器にロクシーが注がれ、石釜で温められる。 おつまみにと煎った豆を小皿に盛って出された。 熱いロクシーでサンタさんと乾杯する。
「私はお酒が好きです。お客さんがお酒飲めるなら一緒に飲みます。色々話せるし」
そう言うサンタさんは一緒に飲み始めてしばらくすると、勤めている会社の愚痴をこぼし始めた。
まぁ、クタクタにはならないように、のんびりしたトレッキングにするか。
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