ラダック行きのシェアジープのチケットを購入した翌日。
午後11時。 荷物をまとめて、バブルー達に挨拶をする。
「お世話になりました。じゃあ行ってきます」
「グッドラック。レーから帰ってきたら、ここに戻ってくるんだぞ」
ホームステイ先の方々と別れを済ませ、マンションを後にした。
ラダックの旅行の拠点となる町、レー行きのシェアジープの停車場所はオールドマナリにあるカフェの前である。
発車予定時刻は深夜の2時過ぎだ。 マナリの深夜は結構冷え込む。 Tシャツでは少し心許ないのでフリースを羽織る。 自分の他にも、レー行きのジープを待っている旅行者が十数人いた。
ジープの乗客は、自分以外はインド人にラダック人と西洋人だ。
お、助手席じゃん。ラッキー。(・ω・)
レーまでの道はかなりの悪路と聞いていたので車酔いが心配だったが、これで多少なりとも軽減されるだろう。 しかし一つ問題点があった。
そのため、ジープが停車する度に俺は気持ち良く寝ているところを起こされ、車を降りなければならなかった(号泣)
マナリを出発して空が白んできた頃、峠での大渋滞に巻き込まれてしまい、どこかの峠でジープは停車した。
これは、おそらく世界で最も高い場所で起こっている渋滞ではなかろうか。
渋滞が緩和されるまでかなり時間がかかりそうだったので、ジープを降りて周囲を歩いてみることにした。
結構標高が高い地点に来たようだ。 少し離れた場所には小さな寺院が建てられており、その近くには大きなマニ車も設置されていた。
ここはもうチベット文化圏なんだな。
ようやく渋滞も収まりつつあり、ジープは再び発車した。 ジープは峠の斜面をぐんぐん登っていく。
前方からの対向車とすれ違う時に車体と車体が擦れるんじゃないかと思うほどの、狭い山道をジープは進んでいく。
崖下に転落しやしないか非常に心配である。
ウトウト。(。-ω-)zzz. . .
(。`・д・) ハッ!
いつの間にか眠っていたようだ。 窓から外を見ると、先ほどの草木が全く生えていない岩山の景色から一変、濃い緑色の草が生い茂る美しい谷に到着していた。
おぉッ!アルプスじゃッ!
ここで休憩時間らしく、茶屋の前でジープは停車した。 立ち往生した峠からは、標高がかなり下がったのだろう。
近くでハイジがブランコ乗ってそうである。
休憩時間が終わり、ジープは出発。今度は高度をどんどん上げていく。
上ったり下ったりと、ラダックへの道はなかなか険しいものだ。
数時間後の休憩の時には、またもや外の景色が変わっている。 かなり標高が高い場所なのだろう。 目の前には純白の雪を被った岩山が静かにたたずんでいた。
この休憩地点では今の時期のみ、テントが張られ食堂と商店を営んでいる。
ジープを降りて(俺が降りるつもりはなくても他の乗客が降りるたびに席を空けなきゃならない)伸びをしながら深呼吸。 冷たい外気が肺の中いっぱいに広がる。
俺が腰掛けた椅子のすぐ横で、ジープの運転手と乗客のスコットランド人女性が談笑していた。
スコットランド人女性はパーマがかかった天然の赤髪に、大変綺麗な顔立ちをした女性だった。 なんかあまり売れてないラノベのヒロインが本から飛び出てきたんじゃないかと思うほどの外見である。
「どの地域が良かった?」 運転手が赤髪の彼女に訊ねる。
「んー、アフリカがやっぱり最高だったわ。心がね、常にオープンなの!」 赤髪の女性が楽しそうに話す。
助手席がマイシートになっている俺は、一番最後に車に乗ることになっている。
乗客が全員乗車するのをジープの横で待っていると、赤髪の彼女に声を掛けられた。 「いつも助手席で大変だよね。君は」 彼女はそんなことを言いながら、俺の肩をポンポンと叩く。
まさかこの女性、俺に気があるのかッ!?
「そう?ならいいんだけど」 微笑みながら彼女は車に乗り込んだ。
ジープはラダックに向けて走り続ける。
陽がゆっくりと山の向こう側へと沈んでいく。 車窓から外を眺めると夕暮れの陽の光を浴びた遠景の山々が、濃い緋色に染まっている。
程なくして陽が沈み、濃い緋色に染まっていた山々も夜の闇に包まれ、真っ黒い巨大な影となる。
マナリを出発して、そろそろ20時間が経過するが、まだ一向にラダックの中心街レーに到着する気配はない。 賑やかだった西洋人グループも、今ではすっかり黙り込んでいる。 5000mを超える峠を2度も越えてきたため、高山病で気分が優れない人もいるようだ。
同乗しているラダック人のおじさんが 「これやるよ。食え」 と、ふやけた煎餅みたいなお菓子を西洋人達に渡していたが
「いらん」
と皆一様に断っていた。
気分悪いと何も食いたくないもんな。
まぁ気分悪くなくとも得体の知れないふやけたお菓子は食いたくないかもしれないが。
自分は特に気分が優れないということはなかったので、ありがたくふやけた煎餅を頂いた。
それをパクパク口に運ぶ。
「う〜ん、GoodGood」 と答える俺。
おじさんはまた、不味いふやけ煎餅を渡してくる。
「う~ん、Good」(泣) 本音と建前って、難しいな……。
車に揺られて数時間経過。 気がつけば午前0時を回り、日付が変わっていた。
レーまでの道は長いなー。
しかし、外に目をやると人工的な建物がチラホラと目に付くようになったので、そろそろレーに到着する頃なのかもしれない。
しばらくするとジープが停車し、運転手が言った。 「チェックポイント」
チェックと言っても、パスポート番号と名前を記入するくらいだ。
車を降りて係官の前に移動すると、そこで男性2人と女性1人の3人組の日本人に出会った。
「日本人ですか?」と尋ねられる。
「あ、はい。そうです」
「そうなんですか。では、また後で会いましょう」
そう言って彼らは自分が乗っているジープとは別のジープに戻っていった。
チェックポイントを出発して十数分後。 国道から左折し、広場のような所でジープは停車した。 遠くにバスが何台か停車しているのが確認できる。 おそらくここはバスステーションだろう。 時計を見ると、もう午前3時を回ろうとしている。
丸一日以上かかったな……。長かった……。
マナリからレーまで、こんなに時間がかかるとは思わなかったぜぇ。(渋滞がなければもっと早く到着するそうだ)
先ほどチェックポイントで出会った日本人3人組が乗ったジープも10mほど離れた場所に停車している。
こんな時間に宿探しか……。宿開いてるのかなぁ……。
しかし夜中に行動するのは超不安だ。 ここがどんな場所か全然知らないし分からないし。 街灯無いし、真っ暗だし。
ジャンキーとか徘徊してないだろうな……。
まぁあの日本人グループに合流すれば多分大丈夫だろう。
そんなことを考えながら車を降りようとすると、乗客のインド人が声を荒げて運転手に何やら抗議を始めた。
何だ何だ?Σ(´д`)
「オババウングリー!オババウンコリー!メナ!ウンァフーウンァフーハイボォォォルッ!」
ヒンディー語なので、言っていることはさっぱり分からないが、インド人が言いたいことは分かる。
ズバリ 「こんな所で車停めるなんてどうかしてるぜ!運転手よぉー。俺が泊まる宿の近くまで車を走らせろ!」 だ。
予想は見事に的中。 運転手はそれを渋々承諾してジープを発進させる。
あぁ~!車を走らせないでッ!あそこに日本人がッ!あのグループに合流させてくれッ!心細いんだッ!日本人を俺一人にしないでくれェェェッ!
しかしそんなことを言う間もなく、自分を乗せた車は無情にバス停から遠ざかっていく。
クソー、他の同乗者の都合は御構い無しで自分の意見を押し通すインド人め~。
自分が中学生の時、俺が風邪で学校を休んだ日に委員決めが行われ、翌日登校したら誰もやりたくない清掃委員に勝手に決定されてたという出来事を思い出したわ。(泣)
明かり一つない真っ暗闇のレーの道を走り、ジープは小道に入る。 とあるゲストハウスの前でジープは停車し、インド人はそそくさと目の前のゲストハウスへ入っていった。
それに続き、乗客の西洋人男性の1人が同じゲストハウスに入り、小走りで戻ってきて言った。
「ヘイ!4人だけなら宿の部屋が空いているらしいぞ!泊めてもらおう」
4人の西洋人男性グループは各自の荷物を持ってゲストハウスへ入る。
乗客が全員降りると、すぐにジープはエンジンをかけ何処かへと行ってしまった。
……………。(´・ω・` )
レーの闇夜にぽつんと俺1人。積極性のない日本人の性がここで出てしまった。
うーむ、どうすればいいんだ。それに結構肌寒いぞ。
さすが標高3500mなだけある。 現在時刻は午前3時過ぎ。
……野宿だな。 周囲は真っ暗で何処にどう行けばさっぱり分からないし。
……なんか虚し寂しー。(泣)
「ねぇ君」
はっ!なんだ幻聴か!?女の人の声が後ろから聞こえるぞ!幽霊でもいるのかこの場所にはッ!?
「おーい君、なに突っ立てるの?」
振り返るとそこには乗客のスコットランド人の赤髪女性がいた。
あなたもまだいたんかい。
「君は宿決まってないの?」 と彼女が訊いてきた。
「決まってないです。……野宿かな」(泣)
「野宿?それは危ないわよ。この先にあるゲストハウスのロビーなら朝まで居ていいって言われたから一緒にどう?」
「え、いいの!?」Σ(・д・)
「いいんじゃないかしら別に1人くらい」
そう言って彼女はゲストハウススタッフのラダック人男性に確認を取る。 「ねぇ、日本人の彼も泊めてあげてよ。いいでしょ?」
「あぁ、別に構わないよ。ロビーのソファーでよければね」
……お姉さぁぁぁぁんッ!! 天使ですか!あなたはっ!地上に舞い降りた天使ですか!
しかし、まさに災い転じて福と為すだ。 こんな夜更けに美しい女性と同じ部屋で過ごせるとは。 やはり昼間の「肩ポンポン」も、俺に好意を持っているからこその行動だったのかもしれん。 いや…きっとそうだ。でなければわざわざ俺に声をかけたりしないだろう。
ゲストハウスのロビーにはソファーはいくつあるのだろうか。 もし1つしかなかった場合……
「あれ?ソファーが一つしかないですね…」
「仕方ないわね……。一緒に寝ても大丈夫かしら?」
「全然構いませんよ」
「じゃあ一緒に寝ましょ」
ってなことになるかもしれない。 いや、なってほしい。
……ウヒョ~~~~!
今夜は…眠れねぇぜッ……! 俺の大和魂がヒシヒシと揺れているぜ! ソファーよ!1つであってくれ……!
ロビーのソファーは2つだった。 テーブルを隔ててソファーが2つ並んである。
「じゃあ君がこっちのソファー。私があっちのソファーね。じゃあおやすみ」
赤髪の彼女は、ブランケットを被って早々と寝てしまった。
うん。そりゃ何も起こらんよな。(泣) 自分もすぐに深い眠りについた。
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