そうだ、バイクで旅をしよう。
乗り物酔いしやすい俺は、バスを使っての旅にはそろそろ嫌気が指してきていたのだ。
ネパールに来た当初は、「どうしよーかなー、バイク買おうかなー、でもバイクお金かかるよなー、どうしようかなー」と決めかねている状態だったが、トレッキング中のバス移動で強烈なバス酔いを経験したこともあり、
それにアレだ。バイクで旅する男ってなんかカッコいいではないか。
ほわんほわんほわわ〜ん。(妄想シーン突入)
颯爽とバイクを走らせてきた俺は、宿の前にバイクを停め、被っていたヘルメットをとる。
「あっ、あのすみません。日本人の方ですか?」
声のする方を振り向くと、宿の入口に若い女性が1人ポツンと佇んでいた。 大学生だろうか。まだ少しあどけなさが残っている顔付きだ。
「はい日本人ですが」
そう言葉を返す。
「バイクで旅をされているんですか?」
「はい、まだ一応購入したばかりなんで、今日は近辺を回ってきただけですが」
「すごーい!バイクで旅する人ってカッコいいですよね!」
彼女は瞳を輝かせながら俺の顔をジッと見つめる。
「いやいや、大したもんじゃないですよ」
そう謙遜しておいたが、若い女性に褒められるのは悪い気はしない。
「実は私、今日ここに来たばかりなんですよ。もしよければバイクに乗せてもらって色々連れて行ってもらえませんか?」
「全然構いませんよ!さぁどうぞ!」
「ありがとうございます!」
ワーッ楽しそう! そうはしゃぐ彼女はバイクの後部シートに腰をおろす。
「じゃあ、しっかり掴まってくださいね」
「はいっ」
彼女はしっかりと俺の両肩をギュッと掴んできた。 両肩から彼女の手の温もりを感じながら、俺はバイクを走らせていった。
…………いい。凄くいい。バイク買おう。
「大輔さん、俺バイク買います。バイク買ったら上記みたいなことあるかもしれないですし」
「なんだその妄想は……」
今日の夕方、バスでジャナクプルに向かう大輔さんは荷物をバックパックにまとめている。
「ラストは女の子が恥じらいながら「夜はバイクではなく私の上に乗ってください」と呟く」 大輔さんが言う。
うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!
バイクだ!やはりバイクを買わねばっ!
確かラムさんが 「バイク買イタイナラ私ニ言ッテ下サイ。安イトコロ紹介シマス」 って、トレッキング中に言っていたな。
「また旅行会社行ってきまーす!」
意気揚々と部屋を出て旅行会社に到着。
「ラムさーん!俺バイク買いたいです!」
「ジャア一緒ニ買イニ行キマショウ」
とあるバイク屋に案内される。
ネパール人の大半はこのバイクを使っている。
「値段はいくらですか?」
「10万ルピーデス」(約11万円)
おぉ、結構な値段だ。俺のこの旅行資金の1/5である。
とりあえず試乗してみる。
そういえば俺はバイクの免許持ってないが大丈夫だろうか?普通免許しか持ってないので原付しか運転できない。 ……まぁここは日本じゃない。ネパールだ。免許持ってなくても運転してる人はごまんといるさ。
エンジンをかけてバイクを走らせてみる。
しまった、これは変速ギアタイプのバイクだ。
「ラムさん、バイクの運転って難しいですね」
「練習スレバー、タブンーダイジョブ」
……まぁラムさんの言う通り練習すれば多分大丈夫だろうが、練習する場所を探さないといけないな。まぁ買ってから考えよう。
「ラムさん、俺このバイク買います」
「チョット待ッテ下サイ」
「バイク買ウ、ポリスオフィスデ紙必要デス」
「紙……?証明書みたいなものですか?」
「イエス。明日ポリスオフィス行ッテ証明書ヲ作ッテ下サイ。ソノ後ニバイク買イマショウ」
ネパールで外国人がバイクを購入するには、何やら書類が必要とするらしかったので、明日警察署に行き書類申請することにした。
バイクを購入するのに10万ルピー必要だったため銀行に行き、そこでトラベラーズチェック1300$をネパールルピーに両替する。
す、凄い厚みだ……。
未だかつて、こんなに札束を手にしたことはない……。
銀行から誰か尾行してきてないよな……。
周囲に全神経を使いながら宿に戻る。
昼食後、夕方まで宿のフロントの椅子に寝そべりながら、だらだらと大輔さんとくつろいでいた。
「おっ、そろそろ時間だ。出発するわ」
大輔さんはそう言って椅子からムックリと体を起こす。
「じゃあそこまでお見送りしますよ」
宿の入口まで行き、固い握手を交わす。
「ではお元気で。2週間近く色々とありがとうございました」
「こちらこそ。バイク買ったらジャナクプルまで迎えにきてよ」
そう言って大輔さんはバス乗り場へ向かっていった。
2週間も一緒にいたので、いなくなるとなんかちょっと寂しい。
翌日、バイク購入のため警察署に向かった。
「すいません、バイクの購入証明書みたいなのもらえますか?」
「あぁ、バイク買うのかい。じゃあこれに色々と記入してもらえるかな」
警官の男性はそう言い、1枚の書類を自分に渡してきた。 書類にパスポート情報やネパールビザナンバー、祖国の居住地などを記入していく。
「君、日本人かい?バイクで旅行するのか。いいねぇ〜」
「へっへっへ、いいでしょ〜」
「はい、それじゃ国際免許証出して」
……………ん? 国際…免許証……だと? …………ネパールでもいるの?
そんなもの俺は持っていない。
「どうしたんだい?」
「持ってないです」
「は?」
「国際免許証というものを持ってないです」
「……はっ?君は国際免許証を持ってないのにバイク買おうとしてるのか?」
「ダメですか?」
「ダメに決まってるだろ!国際免許証が無いと証明書は発行できないね」
「そこをなんとかお願いっ!」
「ダメ」
「マジでお願いっ!」
「ダメ」
「マジでお願いっ!100ルピーあげるから!」
「ダメ。帰れ小僧」
うえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!
チクショー。まさかネパールで国際免許証が要るとは思いもしなかったぜぇ……。
うーむ、バイク買えなかったら買えなかったでしょうがないとして、この大量のネパールルピーはどうすればいいんだ? とりあえず宿に戻ってだらだらしながら考えるか……。 まだ膝が痛むから、あんまり歩きたくないし。
そして、宿の屋上で日記をつけている時のことである。 いきなり後ろから大きな声が聞こえた。
「あーっ!何処にいたのっ!?」
なんじゃいっ!?
後ろを振り返ると、そこにはメグミさんがいた。
「あ、しゃべくりお姉さん」
「何そのあだ名!?」
「生きてたんですね。というか痩せました?」
出会った頃は少しぽっちゃ……。いやまぁ、今はとにかく出会った頃よりスリムになっている。
「トレッキングから帰ってきたら、すぐに何処かへ行っちゃったんじゃないかと思ってました」
「明後日にはポカラに行くんだけどね。聞いて聞いて!ゴーキョとカラパタール両方登ってきたよ!」
「おぉ、凄いですね。高山病とか大丈夫でしたか?」
「全然大丈夫だったよ。それでね、大悟君と大輔さんどの部屋にいるのか分からなくて困っちゃったよー。あ、大輔さんは?」
「大輔さんはジャナクプルへ行きました」
「そうなんだ、あっ!大悟君ランタンどうだった!?」
「景色が綺麗で面白かったですよ」
「写真撮った!?見せて見せて!あっ、エベレストコースの写真見る!?」
……相変わらずよく喋るお姉さんだ。
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