それは、明け方から始まった。
ギュルルルルルルルルルルッ!
は…腹痛ェ……!
すぐにトイレに駆け込む。下痢である。 だが、これはただの下痢ではない。 そう、今まで幾度となく経験してきた(インドで)日本では経験出来ない、滝のように流れ出てくる水便である。
うわぁい。
しかも襲って来たのは下痢だけでは無かった。 「オウォエエエエエエッ!」 嘔吐も同時である。
なんてこった……。当たった…、当たったぞ………!
完璧な食あたりだァァァァァァァァァァ!!(号泣) キタ━━━━。゚+.ヽ(´∀`*)ノ ゚+.゚━━━━!!
うーむ、一体何に当たったのか……。
しかしいきなり旅行序盤にこうなるとは思いもしなかったな。
ギュルルルルルルルルルルッ!
はうぁッ!
またトイレに駆け込む。
この日は1日中、水を飲んで寝込んでいた。
この部屋に自分以外の旅行者がいないのがせめてもの救いである。
翌日、体調は完璧に回復した。 インドでは一日だけじゃ回復しないことはざらにあったが、やはりここは穏やかな国ラオス。食当たりも穏やかに去っていくのだろう。
ハッハッハ!
……とはいえ、昨日1日無駄にしてしまったのは痛いな。 今日の夜にはルアンナムター行きのバスに乗るようにしているのでそれまで町をブラブラしておいた。
日が沈む頃、宿からピックアップトラックに乗り、バス乗り場へと向かった。
「あの、すみません、日本人ですか?」
声のする方を振り向くと、ニット帽を被った若い男性がいた。
「あ、はい紛れもなく日本人です」
「これから何処に行かれるんですか?」
とまぁ、旅人同士ではよくある会話が始まった。
男性の名前はダイチさん。これから中国へ行って、その後に台湾を自転車で一周する予定らしい。
数分後、バスはルアンパバーンを出発した。
ガタタンッ!ゴトトンッ!と音を立てながらバスは悪路を進んでいく。
「物凄い揺れますねー」
「ですねー」
早くも胃が気持ち悪くなってきた。尻も痛くなってきた。
揺れるだけならまだしも、車内はガンガン冷房を効かせている。
超寒い……。
ブランケットが無ければ凍えてしまうところだ。
「なんでアジアの国の乗り物はここまで冷房を効かせるんですかねー」
ブルブル震えながらダイチさんが言う。
「さぁ、これぞ最大のサービスだ!とでも思っているんじゃないですか」
自分が震えながら答える。
「ちゃんと適温ってものを考えてほしいですね」
2人共、ブランケットを頭にまで巻いて顔も冷えないようにしている。
約8時間かけてバスはルアンナムターに到着した。 バスの待機所で次のバスを待っているとき、ダイチさんが何やらバッグから小包を取り出し、訊いてきた。
「盆やりますか?」
「ボン?」
盆とは何のことかと尋ねると、大麻の隠語だとダイチさんは答えた。
「大麻の類いはやらないですね。以前インドでバングラッシー飲んでバッドトリップしちゃったんで」
「やらないのにバングラッシー飲んだんですか?」
「知らなかったんですよ、大麻入ってるって。お酒みたいなものかと思ってました」
「そりゃ災難でしたね」
簡単に説明すると、バングラッシーとはマリファナを混ぜた飲むヨーグルトのことである。
「仕方ない、捨てるか」
そう言って、ダイチさんは近くにある錆び付いた缶のゴミ箱に盆を細かく千切っては捨てていた。
バスの始発の時間。
約2時間でムアンシンに到着した。
宿を探しながらメインロードを歩いているとカタカナで『ムアンシンゲストハウス』と書かれた看板が目に入った。
あ、日本語だ。親切な日本人が作ったのかな……。宿はここにするか。
看板をくぐり、ゲストハウスの敷地内に入るが人の気配がない。
……誰もいないのかな?
「すいませーん!誰かいませんかー!」
大きな声を出すと、隣接している民家から男性が出てきた。
店の奥に2人、初老のラオス人女性がいた。 聞くと、2人で2つの宿とレストランを切り盛りしているそうだ。 宿の部屋は空いてるかと尋ねてみたところ、「1人も宿泊者はいない」と答えた。
……宿の経営大丈夫かオイ。
「どちらの宿がいいんだい?」
宿の主人が自分に尋ねる。
「一番安い部屋があるのは?」
「ムアンシンゲストハウスのトイレ・シャワー共同の部屋」
「じゃあそこに泊まります」
案内されたのは1泊20000キープ(約220円)の部屋だった。
部屋に荷物を置いて外に出る。 ゲストハウスの入り口近くに、屋根付きの長椅子があり、そこでは民族衣装を着たアカ族のおばあちゃん3人が民芸品をせっせとこしらえていた。
「おーい、そこの兄さん」
アカ族のおばあちゃんが声をかけてくる。
「ん、何じゃい?」(・ω・)
「この帽子いらんかぇ?」
「いらないです」
「じゃあこのアクセサリーはどうかぇ?」
「それもいらないです」
「フタツ!フタツ!」
「2つって、なんでそこだけ日本語?」
おそらく日本人に教えてもらったのだろう。
「フタツ!フタツ!」
「2つでも1つでもいらないです」
「じゃあこれはどうかぇ?」
それはビニールに包まれた乾燥大麻(マリファナ)だった。
……ここでマリファナ売ってるのか。 しかし保存状態があまりいいものではなさそうだ。
「いらないです、古いものだと大麻好きな人も買ってくれませんよ」
そう言って、おばあちゃん達から離れた。
ゲストハウスに戻る度に側を通らなければならなかったので、おばあちゃん達はその都度声をかけてきて同じ事を言ってきたが。
ムアンシンはこじんまりとした町で、周辺には山岳少数民族の村が多く点在している。 市場に行くと「味の素」のパッケージと全く同じデザインで「味王」という商品が売られていたり、明らかにHONDAでは無いHONDAとロゴが付いているバイクが走っている。 町自体にはこれといって何もないからなのか、旅行者はほとんど見かけない。
個人的にはこういう町大好きだけど。やっぱり最近の旅行者はネット環境が整った町に集まってしまうものなのかな。
宿の主人が話していたが、数年前まではムアンシンも旅行者で賑わっていた時期もあったらしいが、その中には大麻目当てだった人も少なくない。最近では取り締まりが厳しくなったせいで、全然旅行者が来なくなってしまったわけである。
「もしウチで大麻をやってる旅行者がいたら、すぐに警察に電話するよ!」 と主人は言う。
民族衣装のおばあちゃん達がコソコソ大麻を出してたのはそういうわけか。
町の寺院に行ってみると、たくさんの人が列を作って地面に座っていた。 周りの人に何があるのか尋ねてみると、今日は「托鉢祭」の日だと教えてくれた。 托鉢祭が始まると、たくさんの僧侶が列をなして寺院から出てきた。
ルアンパバーンじゃ托鉢見れなかったけど、ここで見ることができたな。
その光景を眺めていると、いつの間にか自分の横にいた西洋人の老夫が話しかけてきた。
「ハッハ、面白いお祭りだな、ハッハ」
凄く太い黒い眉毛に、白い顎髭を生やしている顔が特徴的な老夫だ。
「君はラオス人…ではないな。何人だ?」
「日本人です」
「そうか、私はイタリア人だ。よろしくなジャパニーズボーイ。ハッハ」
イタリア人の老夫は昨日ムアンシンに来たと言う。
「では良い旅を。ジャパニーズボーイ。ハッハ」
そう言って老夫は何処かへ歩いていった。
托鉢祭を見終えた後、市場で食べ物を買って遅い昼食を摂っていると、見知った顔がテクテクと歩いているのが見えた。
あ、浅利さんだ。(・∀・)
「おーい!浅利さーん!」
向かうもこちらに気付いたようだ。
「ここで会えるとは思わなかったよ。ルアンパバーンで会えると思ってたのに」
「そうですねー。ちょっと食あたりとかで出歩けなかったりで……」
浅利さんは明日フェイサイに向かい、タイに戻るらしい。
夜、一緒に晩飯を食べて連絡先を交換した。
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