やべー。何もする気が起きねー。自主的に外出する気がしねー。
マンションにホームステイをさせてもらって、1週間が経過した。
この1週間何をしていたかというと、ほとんどマンションに引きこもっていた。
日がな一日、晩ご飯の材料のサヤエンドウやニンニクの皮剥きをして野菜と戯れてみたり、リビングのソファーでくつろぎながら映画を観たり、マンションにやってきた白人旅行者たちがマリファナを吸う光景を眺めていたり、レビに連れられて彼が経営しているバーに行ってタダ酒を頂いたり。
とまぁ、こんな感じに怠慢なダラダラ生活を堪能していた。
はたから見ても、現在の自分からは外国を旅する旅行者という雰囲気は全く感じられないだろう。
ただの引きこもりだ。
そもそもホームステイさせてもらっている現在の環境があまりにも快適過ぎることに問題がある。
あったかいシャワーにふかふかなベッド、自由に使えるキッチンに整った食材。 天性の引きこもりの才能に満ち溢れている「Mr.HIKIKOMOLI」の自分からすれば、このような状態になるのは至極当然のことである。
現在の俺の誇り高い暮らしぶりは「引きこもり界の星」と言っても過言ではない。
もう何処にも行きたくねー。 旅するの面倒クセー。 とゆうか日本に帰国したい。
そんなもん知らん。
あと数ヶ月ぐらい、ここにホームステイさせてもらいてー。
………………はっ。(・ω・)!
そういえば今日カメラの修理屋に行く日だったな。
仕方ない……。外に出るか……。
カメラの修理屋に足を運ぶ。
「こんにちはー。カメラ直りましたか?」
修理屋の主人に尋ねる。
「おぉ、来たかい。まぁカメラを試してみたまえ」
ニヤリとした笑みを浮かばせながら主人はカメラを手渡してきた。
おぉ愛しの我がEOS40D、戻ってきたか……。
外見は特に変わりない。
試しにシャッターボタンを押すと、カメラは以前と変わらぬ軽快なシャッター音を鳴らした。
おぉッ!治ってるッ!(・∀・)
シャッターボタンを押し続けての連写も全く問題無い。
完璧だ。カメラが復活!!
「ハッハッハ、どうだい。完璧に直ってるだろ」 得意げに修理屋の主人は笑う。
「サンキューじいさん!助かったよ!」
修理代を支払い店を出る。
よし……。
せっかくカメラ直ったんだからマナリの街並みでも撮影しないのかだって?
そんなもん知らん。
今は外に出るより、室内のベッドでゴロゴロしたいんじゃ。インドア派の血が高ぶっているんじゃ。
そしてマンションへ戻っている途中。
「ハロー。ミスター」
タブラー(インドの太鼓)の売り子に声を掛けられた。 足を止めて「ハロー」と挨拶を返す。
「ミスター。タブラー買わないか?」 こいつなら買ってくれそうだと思ったのだろう。売り子の男は熱心にタブラーを勧めてきた。
「うーん。楽器には全く興味がないんですよ。いらないです」
「君が興味無くても家族や友達にプレゼントすればええさ」
「多分家族もいらないって言うと思います。それに俺のバックパックは荷物でもうパンパンですし」
「荷物パンパンでもこうやってタブラーの紐をバッグの外に括り付けておけば大丈夫さ」
「何かにぶつかった時に壊れませんかね?」
「大丈夫。このタブラーは凄く丈夫だ」
「どっちにしても荷物が重くなるからいらないです」
「じゃあこの一番小さいのを買えばええ。とても軽いぞ、音も良い」
「え〜。いらねぇ……」
「ほれっ。試しに叩いてみろ」
売り子の男はタブラーを渡してきた。
まぁ試すだけならいいか。
膝の上に乗せて叩いてみる。
ん?(・・;) もう一度叩いてみる。
トッ。 ん?音が出ないぞ。(・・;)
売り子の男はそう言って、タブラーの側面に近い部分を、素早く指で叩いた。
ポンッ!
タブラー特有の軽い音が鳴った。
なるほど。
「こうですか?」
売り子の男の真似をしてポンッとタブラーを叩く。
「そうそう。それでこんな風にリズムよく鳴らしていくんだ」
ポポポンッポポポンッポポポンッと売り子の男はタブラーを叩く。
俺も見よう見まねでタブラーを叩いてみた。
「……上手い。上手すぎるぞ、お前さん。タブラーを叩いたことあるのか?」
「初めてですけど」(・ε・)
「初めて叩いてそこまでの音色を叩き出すとは……。お前さん、タブラー使いの才能あるんじゃないか?」
「そうですか?」
「あぁ。お前さんなら絶対日本……、いや、世界中に名を轟かす『スーパータブラー』になれるに違いない」
まぁジャイアンやスネ夫にダメ人間呼ばわりされているのび太だって「射撃」と「あやとり」の天才だ。
どんな人間にだって取り柄の一つや二つあるものさ。
「そうかッ。だったらまずタブラーを買わないとなッ。大奮発だ!未来輝くスーパータブラーのお前さんにこのタブラーを3000ルピー(約5000円)で売ってやろう!」
「よし分かったッ!そのタブラー、3000ルピーで………………買うかボケェェェェェェェッ!!」
ふー。危ない危ない。
「頼むよ……。買ってくれよミスター」
「いや本当に必要ないんですよ」
「もう5日間も売れてないんだ。じゃあ値引きをしよう2000ルピーでどうだ?」
「2000ルピーでも高すぎるでしょ」
タブラーの適正価格は全く知らないが、どっちにしても購入するならちゃんとした楽器店で選んだほうが無難だろう。
「分かった分かった。1300ルピーでどうだ?」
「値段下げられても買わないですよ」
「分かった分かった。お前さんが付けているその腕時計。それをくれたら800ルピーでいいさ」
「いや、この腕時計は必要なものですし。どっちにしてもタブラーは買わないですよ」
そんなやり取りを続けていると、やたらテンションが高い男がいきなり声を掛けてきた。
「ヘイ、マイフレンド!元気か?」
「あ、あぁ。元気ですよ」
いつも思うんだが、何故多くのインド人は初対面の人にも「マイフレンド」と呼ぶのだろうか?
「マイフレンド。君、こないだここを通っただろ。バイクに乗っているの見たぞ!」
あぁ。バブルーが運転するバイクに乗せてもらって野菜を買いにきた時のことか。
「あの日、何していたんだ?」
「野菜市場に行ってた」
売り子の男が、わきから口を挟む。
「ミスター。そんな話よりタブラー買ってくれよ」
なんとまぁ諦めない心の持ち主だ。
「いや、さっきも言ったとおり必要ないんですよ」
「分かった。じゃあラストプライスで1000ルピーでええからさ」
「いらないものはいらないんですよ。じゃあさっきタブラーを演奏させてもらったので、演奏料として10ルピー払います」
カメラ直って気分いいしな。10ルピーぐらい払ってあげよう。
財布から10ルピーを取り出すと、売り子の男はこう言った。
「待て待て。それだったら俺はあそこの店のケーキが食べたい」
「ん、何処の店ですか?」
テンションの高い男が「あれだよあれ!」と、すぐそこにあるパンケーキを販売している店を指差した。 そして俺に有無を言わさないうちに、勝手にケーキを注文する。
うぉいィィィィッ!
「60ルピーだ。支払い頼むぜ。マイフレンド」
何勝手に注文してケーキ受け取ってんだッこのやろうッ!! いつから俺がテメェと友達になったんだッこのやろうッ!!
「おじさん、ケーキ美味しいかい?」
「あぁ美味い。サンキューお前さん」
「そいつは良かった。じゃあ俺は帰るよ」
「待ってくれ、お前さん。結局タブラーは買ってくれないのか?君の腕時計をくれたら600ルピーでええさ」
ケーキ買ってあげただろうがッ!!
「いらないです。さいなら〜!」
そう言って俺は、ニューマナリの街を後にした。
そしてマンションに向かっている途中のこと。
「ヘーイ、君の靴壊れているよ。修理しようぜ」
靴の修理屋と思しき青年たちが声を掛けてきた。
「そう?別に壊れてないけど?」
確かに、今履いているサンダルの足の甲を覆う部分が少し破れているが、壊れているというレベルではない。
「問題ないよ。普通に歩けるし修理は必要ない」
そう断ったが、青年たちは執拗に営業トークをけしかける。
「まだ旅行の最中なんだろ?これから先に壊れたら歩けなくなるかもしれないぞ」
「その時は新しい靴買うから問題ないよ」
「そんなこと言わずに修理しようぜ。ベストプライスでやるからさ」
「じゃあいくらでやってくれるんだい?」
「200ルピー」
「さよならー」(_´Д`)ノ
「分かった分かった。いくらならいいんだ?」
「縫うだけでしょ。じゃあ10ルピーで」
「10ルピー?お前はクレイジーか?ジャパニーズ」
「じゃ、いいや。さよなら」
「待て待て。じゃあ20ルピーでいいさ。ついでにクリーニングもしてやる」
20ルピーか……。まぁそのぐらいならいいかな。
「20ルピーね。じゃあ頼むよ」
青年にサンダルを渡し、破れている部分を糸で縫ってもらう。
ちなみに縫合部分は木綿糸である。
青年はそう言い、サンダルを磨こうとする。
さっき「ついでにクリーニングもしてやる」って言ってなかったか?
「ちょっと待った。別料金ならクリーニングはしなくていい」
サンダルを磨こうとする青年の手を制止してサンダルを受け取る。
「はい、じゃあ修理代20ルピー」
修理代を支払おうと財布から20ルピーを取り出すと、青年が言った。
「それじゃ足りない」
「は、なんで?」Σ(・д・)
青年はいけしゃあしゃあと言ってのけた。
「20ルピーじゃない。100ルピーだ」
100ルピー?いや確かに20ルピーで交渉は成立したはずだ。
「なんで100ルピーなんだ?君は確かに20ルピーでいいと言ったはずだ」
そう聞くと青年はやや粗暴な口調で答えた。
「お前のサンダルの修理に5針縫った。1針20ルピー。だから合計で100ルピーだ」
天才外科医ブラックジャックでもさすがに「傷口を1針縫うごとの医療費上乗せ」はしたことないぞッ!!
「そんなことは聞いてない。それなら最初から一針20ルピーって言うべきじゃないか。君は修理代20ルピーと言った。だから俺は20ルピーしか払わない」
「ふざけるな。100ルピー払え」
ふざけてんのはどっちだよ……。
「いいや、俺は20ルピーしか払わない」
そんな言い合いを続けていると別の青年も口を開き、強請に加わる。
「おいお前、どうしても100ルピー払わないんだったら警察を呼ぶぞ」
こんなことで警察が来るわけがないだろ。
いい加減怒るぞ、コノヤロー。
「どうぞ、呼べるものなら呼んでくれ」
「分かった。ただ警察を呼ぶとお前は罰金として1000ルピー払うことになるぞ。それでもいいんだな?」
なんじゃその無茶苦茶な話は?
「はいはい、構わないよ。呼べるものなら呼んでくれ」
青年はポケットから携帯を取り出し、何処かに電話をかける。
「今、警察を呼んだ。そこで待ってろ」 電話をかけた青年は脅しつけるような表情で俺を睨む。
警察は来ないだろうが、警察に扮した仲間でも連れてこられたら面倒なことになりそうだ。 どちらにせよ、こんなこけおどしに乗せられ正直に待つ気は毛頭ない。
「待つのはゴメンだね。俺は帰る。バーイ!」
20ルピーを青年に投げつけ、俺は足早にそこを去った。
「このやろう!お前の顔を覚えたからな!」
まぁ追いかけられたら、こっちが「ツーリスポリスを呼ぶぞ!」などと脅せばいいだけだが。
しかしなんて奴らだ……。久々に激おこぷんぷん丸だよ全く……。
久々に外に出たらコレだもんな。
学生時代の自分は、目があったという訳の分からない理由でよくヤンキーに絡まれていたが、靴磨きのヤンキーに絡まれたのは生まれて初めてである。
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超インドア派。妄想族である。立ち相撲が結構強い。
好きなTV番組は「SASUKE」。