トレッキング初日。 5時過ぎに起床。
「ああ、眠ぃ……」
メグミさんの長話に付き合ったので、睡眠時間が足りない。
「オハヨウゴザイマス」 トレッキングに同行するガイドのラムさんがもう出迎えに来てくれていた。
「おはよーございましゅ」 あくびをしながら挨拶を返す。
ガイドのラムさんは日本語をかなり話せる人だ。
バスがカトマンズを出発して上り坂に差し掛かりしばらくすると、ネパールの自然に溢れた景観が窓の外に映った。 段々畑が遥か下の方まで続いている。
「すげー景色だなー。今この景色を見て外国にいるんだってことを改めて実感するな」
「そうですねー、こんな景色はなかなか見れないですね。感動ものです」
酔った。(´д`lll)
強烈なバス酔いである。
全く整備されてない道なので車体が上下に揺れる上、うねるような蛇道をずっと走っているため、乗り物酔いしやすい人にとっては最悪な道のりなのだ。
「大輔さん……、俺は今、猛烈にバス酔いしてます」
「大丈夫?」
「あぁー、ぎもぢわるい……」
自分の後ろの席に座っている少年もバス酔いしたらしく、ビニール袋に豪快にぶちまけているようだ。
それにつられて俺も、もらいゲロしてしまいそうだ。
あまりの気持ち悪さに外の景色なんか、もうどうでもよくなっていた。
「タブンーダイジョブ」
いや大丈夫じゃないんだけど!
地獄のようなバス酔いに耐えること十数分後、バスは休憩地点に到着。
あ、危なぇ……、リバース寸前だった……。
ふらつきながらバスを降りる。そして深く深呼吸。 あー、空気が美味しい。カトマンズから離れたらこうも違うもんなんだな。
約30分の食事休憩の後、バスは出発。 ラムさんが調子はどうかと尋ねてきた。
「ダイゴサン、元気デスカ?」
「えぇ、休憩したら随分楽になりました」
「ソレナラータブンーダイジョブ」
……多分大丈夫だといいけど。
大輔さんが自分達の横に置いてある段ボールに似た箱に目をやる。 「なんか鶏の臭いしない?この箱に鶏いるんじゃないかな?」
「あ、言われてみれば臭いますね」
箱に耳を澄ませてみると、コッコッコケコケッと確かに鶏が鳴いてる声が聞こえる。
「鶏確定だな」
「鶏を仕入れて村に持って帰るんでしょうね」
今まで気にしていなかったが、密室にこもる鶏の臭いは意外にきついものだ。
そう思っていた矢先……、
「オウェェェェェエエエエッ!」
斜め左の座席に座ってるおじさんがリバース。
乗り物に弱い人間にとってネパールのバス移動は過酷極まりない。
数時間後、トレッキングの出発地点シャブルベシ村に到着。 標高は1460m。
宿に荷物を置いて村を散策。
のどかな雰囲気を味わいながらテクテクのんびり歩く。
「ハロー」 村の男の子達に挨拶された。
「ナマステ」 こちらも挨拶を返す。
「写真撮ってもいい?」
先日教えてもらったネパール語で訊いてみる。
うわー!ぎゃー!ネパール語だ!
「そんなに驚くもんか」
子供の反応を見て笑う大輔さん。
日が暮れるまで、村の子供と爺さんと話をしていた。
トレッキング2日目。
シャブルベシから少し離れた橋を渡ると、いよいよ山道に差し掛かった。 かつてイギリス人の登山家ティルマンが「世界で最も美しい谷のひとつ」と称賛したランタン谷へトレッキングの始まりじゃ!
オラワクワクすっぞ。
そして、山道を登り始めて十数分後…………。
………………暑ぃ
暑い~。暑いよ~。汗だくだくだよ~。
ネパールは常時寒いと思っていたが、今の時期、日中は普通に暑い。 考えてみれば、ネパールの経度は日本の奄美大島とほぼ同じなので、標高が高いところに行かない限り寒いはずがない。
更に十数分後…………。
ハァハァゼェゼェ……フゥフゥ……、
…………疲れた。
急こう配の山道は想像以上にきつい。
ハァハァ……、トレッキング…舐めてたぜェ………。
「ハァ…トレッキング、こんなに疲れるとは思いませんでしたよ」
「だね。ラムさんは凄いな。全く息切れしてない」
大輔さんの言う通り、ラムさんは息切れひとつせずに、ひょいひょい歩いていく。
「ただのおじさんじゃないですね。チートキャラだ。間違いなくレベル99だ」
「そりゃガイドが俺達と同じレベルだったら、ガイドの意味無いだろう」
自分と大輔さんの歩くスピードに合わせてラムさんは歩いている。
「ユックリユックリネ」
数十分おきに少し休憩をとり、昼過ぎにロッジが3軒あるバンブーに到着。
「ダルバートタイムデス」
ラムさんが言う。
ダルバートタイム?あぁ昼食時間か。
「はー、もう腹めっちゃ空いてるよ」
荷物を降ろしながら大輔さんがテーブルに座る。
ラムさんがメニュー表を差し出す。
うーむ、食べたいものは色々あるが、今は質より量だ。エネルギーが必要だ。
「じゃダルバートで」
「俺もダルバートで」
2人共ダルバートを注文。
ダルバートとは、ダル(豆スープ)バート(ご飯)タルカリ(おかずにジャガイモやカリフラワー)それにアチャールという漬物が付く、代表的なネパールの定食だ。基本的におかわり自由である。好きなだけ、長靴いっぱい食べることができる。
運動後に食べる食事はやはり美味しい。
「超うめー!ダルバート超うめー!」
「カトマンズで食べたダルバートより美味しいな。水が綺麗だからかな」
「米と野菜がめちゃ美味しいですね~。これならご飯いくらでもいけちゃいます」
ジャイアント白田顔負けの食いっぷりを大輔さんに見せつけながら、ダルバートをがつがつ掻っ込む。
「お姉さん!ライスおかわり!」(≧∇≦)
「お兄さん、美味しそうに食べるねー、ご飯どのくらいいる?」
「エベレストに積もる雪ぐらい盛ってくれ」
「はいどうぞ」
そう返事すると銀色のボールに盛られていたご飯を全てどっさり盛られた。
ご飯が盛られたお盆を持つと、ずっしりとした重みが腕に伝わる。 その量、推定1.5kg。
「大輔さん、まだ足りないでしょ?少し分けてあげましょう」
「君のご飯だ。遠慮しないで食べたまえ」
「……俺はジャイアント白田にはなれないんですよ」(泣)
「やれやれ…3分の1だけ貰うよ」
そしてなんとか完食。 「あぁ~、腹いっぱいじゃ~。もう何も食えねぇ~、動けねぇ~」
椅子の背もたれに寄り掛かり、空を見上げる。 真っ白な雲がふわふわと風に乗ってゆっくりと南へ向かっている。
「雲の動きもユックリユックリネ」
「何ラムさんの言い方真似してんの、俺トイレ行ってくる」
「はーい」
大輔さんはそう言ってトイレに。
「ラムさーん、今日はあとどれくらい歩くんですか?」
「アト3時間、4時間クライ」
「結構歩きますねー」
「無理シナイデユックリユックリネ」
「途中から疲れて歩けないかもです」
「大悟サン、大輔サンハ、タブンーダイジョブ」
大輔さんが戻ってきた。 少しニヤついている。
「どうしたんですか?笑ってますけど」
「あー、さっきさー……」
ここから少し大輔さん視点に切り替え
ご飯盛りすぎだろ。
大輔は心の中で呟いた。
ネパールの人はご飯の盛り方に加減というものを知らないのだろうか。
目の前の席に座っている大悟は予想外の盛り方に驚きを隠せない様子だ。目が点とはこのことを言うにふさわしい。
このご飯は彼がおかわりを注文して盛られたご飯だ。 吉野家の牛丼の大盛3杯分は優に越しているだろう。
「凄い量だなー、絶対1kg以上はあるなそれ」 大輔が大悟に言う。
「大輔さん、まだ足りないでしょ?少し分けてあげましょう」 大悟はそう言いながら、大輔のお盆にご飯を移そうとする。
なんて奴だ。一人では食いきれないということで俺にご飯を移そうという魂胆か。
瞬時にそう察した大輔はこう断わった。 「君のご飯だ。遠慮しないで食べたまえ」
断る大輔はまだ腹いっぱいになったわけではない。腹5分目ぐらいまで胃に物を入れれば満足するという体質ということもあったが、一番の理由は大悟がこの大量に盛られたご飯を本当に完食できるかということに興味があったのだ。
その雪山ご飯、本当に食べるのか…………?
しかし大悟はこう切り返してきた。
「……俺はジャイアント白田にはなれないんですよ」(泣)
確かにジャイアント白田なら、このぐらいの量など問題なくペロリと平らげてしまうだろう。 しかし、大悟はジャイアント白田ではない。普通の一般人だ。
「やれやれ…3分の1だけ貰うよ」
そう言って大輔は大悟のお盆に盛られたご飯を、自分のお盆に少し移す。
少し量が多いかもしれないが、食べきれないほどではない。
さっきまで目の前に盛られたご飯を大輔と大悟、両者とも見事に完食した。
大悟は椅子の背もたれに寄り掛かり、腹を擦る。
「あぁ~、腹いっぱいじゃ~。もう何も食えねぇ~、動けねぇ~」
確かにあれだけの量を食べきると、動くのもきついだろう。
「雲の動きもユックリユックリネ」
大悟が呟く。 ユックリユックリネとはガイドのラムさんが今日よく使っていた言葉だ。これからも頻繁に使い続けていくだろう。
「何ラムさんの言い方真似してんの、俺トイレ行ってくる」
一応大悟にそうツッコミを入れておいて、大輔はトイレに向かう。
さて、ネパールの山中にあるトイレというのはどんなものなのだろうか。
大輔は日本の人里離れた田舎にある、昔からあるようなトイレだと予想していた。
中は地面に穴を掘ったボットン式だろうな。
大輔は出っ張った木材の部分(これがドアノブの代わり)を掴んで、トイレの扉を開ける。 刹那、大輔の眼前に衝撃の光景が飛び込んできた。
欧米人の男性がしゃがみこんで用を足していたのだ。
一般的に男性がしゃがみこんで用を足している時は、小ではなく大である。 その欧米人も例外ではなく、大便であった。
しかも、大輔が扉を開けた時は不運にも欧米人の肛門から茶色いブツが捻り出されている最中である。
さっきまで欧米人の体の一部であったものが、欧米人の体から離れて、地面に落ちていく。
ボトッ、という鈍い音が大輔の鼓膜がとらえる。
しまった…………!
大輔は思った。
最悪のタイミングでドアを開けてしまった……!
自らの脱糞行為を見られた欧米人の男性は、大輔にケツを向けたままグリンと首を捻り、大輔を睨む。
欧米人と目が合い、大輔は硬直する。
「ソーリーソーリー、アイムソーリー!」
硬直した大輔が瞬時に口にした言葉だ。
さすがに、これだけで解決するとは思わなかったが、今はこの言葉しか思いつかなかった。 欧米人がへの字にしていた口を開く。
やばい、怒られる……!
しかし、欧米人は大輔が全く予想だにしない返答をした。
「Oh―!Its OKー!」
…………へ?
大輔の予想と反して、欧米人の男性は脱糞している状況を見られても全く気にしていなかったのだ。
「ソーリー……」
大輔はそう言いながら、申し訳ない気持ちでトイレのドアを閉めた。
そして、すぐに欧米人の男性はトイレから出てきた。
大輔視点終わり、大悟視点に戻る
「……ということがあったわけだ」 大輔さんは事の経緯を滔々と説明した。
「はぁー、生尻を見られて「Oh―!Its OKー!」で済ませるとはかなりの強者ですね、そのおじさん」
「神経が図太い人なんだろうね」
男なら、ドーンと構えておけということだろう。
俺も脱糞しているところを見られても、全く動じない男になりたいものだ。
もしそんな状況が訪れた時は俺はこう言うことにしよう。
「気にするな」
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超インドア派。妄想族である。立ち相撲が結構強い。
好きなTV番組は「SASUKE」。