「明日も来いよ」
そうビジに言われたので、ビスケットを持って昨日の商店を訪れた。 チャイをご馳走になったしな。子供たちも喜ぶだろう。
そう言いながら商店に入る。
「おぉ、今日も来たな。チャイ飲むか?」 商店の男が言う。
「頂きます。これどうぞ」 そう言って、ビスケットが入った袋を差し出す。
「おぉこりゃ悪いな。サンクス」
「お、大悟。なんで今日もいんの?」
「いや、ビジが明日も来いよって言ってたじゃん」
「あぁ、そうだったな。忘れていたわ」 笑いながらビジが言う。
適当なやっちゃな。
「大悟、チャイ飲む?」
「チャイならビジが来る前に頂いたよ」
「そういやさ大悟、俺は日本に行きたいんだよ」
「なんで?」
「日本で働くとたくさん金が稼げるだろ?」
「うーん、まぁ職業によるかもしれないけど」
「俺は靴の修理と靴磨きが出来る。靴の修理屋は日本で働いたらどのくらい金が貰えるんだ?」
見たことないな。 都会に行ったらいるのかなー。 そもそも田舎育ちの自分はティッシュ配りの人すらテレビでしか見たことがない。
「分からないのか。日本に靴の修理兼磨き屋はいないのか?」
「いや……。靴屋はあるけど。道端で靴を磨いている人がいるのかどうかは分からん。見たことがない」
「いないのか?じゃあビジネスチャンスじゃないか!大悟、俺は靴磨きと修理で日本で金持ちになるぜ!」
「うん、頑張って」(・∀・)
「じゃあ大悟、日本までの航空券代とパスポート代くれ」
「そりゃ無理だ」( ;゚Д゚)
その後、ビジの知り合いだという初老の男がやってきた。
「おぉ、君か。ここにひょっこり来た日本人というのは」
初老の男と話をしていると、ビジが言った。 「大悟、このじーさんはダーティーメンだ。気をつけろよ」
ダーテョーメン…。汚れた男?
「なんでダーティーメンなのさ?」
「このじいさん、毎日マリファナかましてんだよ」
あぁそういうことね。
「ビジも時々ガンジャやチャラスやるって言ってたじゃん」
「俺のことはいい」
どういう理屈だよ。
ダーティーメンが俺に訊ねる。
「俺はやらないですよ」
「ワシはたくさんの種類のドラッグを持っとる。少しくらい買ってみる気はないか?」
「買ってみる気は全く無いですな」
昨日もビジに勧められたし初対面の外国人にドラッグ売るのこの町で流行ってんの?
丁重にお断りするとダーティーメンはこう言った。
「嘘をつくな。お前さんの目はドラッグを欲しがっとる奴の目じゃ。本当は欲しいのじゃろ?」
「君の瞳は美内すずえが描くキャラクターの瞳ぐらいキラキラに澄んでいるね」
と言われている人間だ。
「いやー、そんな目をしていてもドラッグをやる気はないです」
丁重にお断りする。
「そうか……。そういやお前さん。クルで何処かに行く予定はあるかい?」
「うーん、特に決めてないですね。何も考えずブラブラ適当に歩いているだけなんで」
「クルにはシヴァテンプルという寺院があるんだ。行ってみないか?」
リクシャーを手配してそこまで連れていってやるとダーティーメンは言ったが、生憎、俺は寺院にあまり興味が無い。
「うーん、遠慮しときます」
「お前さんせっかくクルに来ているんだから、シヴァテンプルに行っとかないと勿体無いぞ。寺院内もワシがしっかりガイドしてやるから楽しい事間違いなしだ」
「ガイド出来るんですか?でもガイド料が必要なんじゃないですか?」
「そりゃガイド料はいるさ。でも特別価格だ。リクシャー代込みで2000ルピーだ」
高いわッ!!(( ;゚Д゚))
「いや。ノーセンキューです」
「分かった。じゃあ少し値下げしてやる。1500ルピーでどうだ?」
「値段下げられても行きませんよ」
「そうか、残念だ」
その後、ビジがその辺を歩かないかと言うので、ビジとダーティーメンの3人で商店から少し離れた公園に足を運んだ。
そこでは複数の男達がクリケットをして遊んでいた。 だが目隠しをしているにも関わらず、バッターはピッチャーが放るボールをうまい具合にバットにミートさせて打ち返す。
「やぁ君。バッターが何故目隠しをしているか分かるかい?」
「心の眼を鍛えているんですか?」
そう返すと男性は笑いながら答えた。 「少し正解。バッターは皆、盲目の人なんだよ」
話を聞くと、男性は盲目の人達をサポートする福祉の仕事をしているらしい。
「目が見えなくても運動はしたいからね」 と男性は言う。
盲目者は耳を凝らせてボールが弾む音だけを頼りに打ち返すそうだ。
そして夕刻。 ビジは帰宅。 陽が沈んできたので自分も宿に戻ることにした。
「じゃあ、じいさん。俺もそろそろ宿に帰るよ」
ダーティーメンにそう告げると、彼は 「あぁ。ちょっ、ちょっと待ってくれ日本の若造」 と声を出した。
なんの前触れもなく、ダーティーメンの顔付きが苦痛に歪んだ表情になっていく。
彼は腹部を抑えて 「ううううう……」(´д`lll) と呻き声を漏らしている。
「は…腹が………」(´д`lll)
「腹が痛むのか!?」
「あ…、あぁ、実は以前から身体の調子が悪いんだ………。うぅ苦しい。お前さんワシを助けてくれ……」
眉間に皺を寄せ腹部を抑え続けるダーティーメン。
そうダーティーメンに提案したが、彼は静かに答えた。
「い…いや、いい……。ワシは病院は好かん……。それよりワシが簡単に助かる方法がある……」
「なんだ!?それはどんな方法なんだ!?」
「3000ルピーくれ」
「…………………………」(・ω・)
アホかァァァァァァァァァッ!!! お金あげたら治る病気ってどんな病気じゃァァァァァイッ!!!
「いや、お金あげたら腹痛が治るって嘘だろ。じいさん」
「ほ、本当じゃ。3000ルピーくれたらワシの腹痛は治るんじゃ」
「宿題をやってきたけど持ってくるのを忘れました」 という嘘の方がまだマシな気がするぞ。
「……じーさん。そりゃ無理だ」
「分かった……、じゃあ2500ルピーでいい」
「……金額変わっても無理」
「そうか。残念だ」
「じゃあな若造」 そう言い残してダーティーメンは軽快な足取りでスタスタと歩いて行った。
……………………。
やっぱり全然元気じゃねぇかッ!
なんか心配して損したわ。
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超インドア派。妄想族である。立ち相撲が結構強い。
好きなTV番組は「SASUKE」。