6時半に起床。久しぶりの早起きである。
………眠い。(´-ω-)。o○
「あぁぁぁぁ………。行くの面倒くせー」
「じゃあ行かなきゃいいじゃない」 ミチコさんが言う。
「2人ともバス停知らないって言ってましたから道案内しないと……」
まぁ平田のおじさんだけなら2度寝して1時間ぐらい遅刻してもいいような気がするが、ひとみさんもいるからな。
紳士はレディーとの約束はかならず果たさねば。
朝ごはんのゆで卵を頬張りながら宿を出る。
「んじゃ行ってきます」
「吉報を待っておる」
待ち合わせ場所の銀行の前に到着。 数分後にひとみさん、そのすぐ後に平田のおじさんがやってきた。
「おはよーございます。じゃあ行きましょうか」
バス停に向かって歩き出す。
「平田さん、パンゴンツォ行きのジープ、シェアする人見つかりましたか?」
「いやー、それが全然見つからないんだよ。どうしよう」
ふむ、やっぱり見つかってないか。
「そうですか。実は昨日パンゴンツォに行きたいって人2人見つけたんですけど」
「え!本当に!?」
「はい。でもその2人はジープは高いからバスで行くって言ってました」
「なんだ、そうか……」
「でも1000ルピーくらいまでならジープで行くって言ってましたよ。残りを平田さんが出せるなら一緒に行くかもです」
「残りっていくらぐらいかな?」
「パンゴンツォまでのジープ代は8000ちょいくらいなんで6000ルピー出せばいいんじゃないでしょうか」
「あぁいいよ!そのくらいなら全然出すよ!」
マジか!太っ腹だなおっちゃん!
「マジですか!その2人のうちのひとりが実は俺なんですけど」
「なんだ君かよ。いいよ!そのくらいなら全然出すよ!」
「あの、アタシも一緒に行ってもいいですか?」 ひとみさんが言う。
「いいよ、全然構わないよ!」
「アタシも1000ルピーぐらいでもいいですか?」
「いいよ!全然構わないよ!」
神かこの人は。
「じゃあ平田さんは5000ルピーくらい出してもらえればOKですね」
「あぁ、そのくらいなら全然出すよ!」
ここまですんなり決まるとは思わなかったな。
「そのパンゴンツォに行きたいって人はすぐにコンタクト取れるの?」
「えぇ。同じ宿に泊まっている人なんで、ティーチング終わったらすぐに宿に戻って話に行きます」
バス停からチョグラムサルに向かう乗り合いトラックが出ていたので、荷台に乗ってチョグラムサルに到着。
すごい人の数。
ラダック中のほとんど住民がここに集合しているんじゃないかと思うほどである。この観客動員数の割合は嵐のコンサート以上のものであろう。
ラダックの民族衣装を着た子供もたくさんいた。警備員に荷物チェックを受けた後、外国人専用シートに座る。
ではさっそくダライ・ラマの説法を英語の通訳を通して聞いてみよう。
………。 うんうん……。ふんふん成る程……。
……………………。
(英語が難しすぎて)何一つ理解できねぇよ!!
「大悟君、何言ってるか分かる?」
平田のおじさんが尋ねてきた。
「えーと……さっき話していた内容はですね……、本来、すべての物質には抵抗(強度、硬度)が存在するために、その衝撃が完全に伝わることはない。だが刹那に二度の衝撃を打ち込むと、第一撃は通常通り物体の抵抗で緩和されるが、刹那に打ち込まれた第二撃の衝撃は、抵抗を一切受けることなく完全に伝わるため、物質の硬度に関わらず粉々に粉砕することができる……、と言ってました」(大嘘)
「え?そんなこと言ってるの?」
「はい」
「そうか…。よく分からないけど凄いことを言ってるんだなぁ……」
平田のおじさんが心理に近づいた瞬間である。
しばらくすると雨が少しちらついてきたので、ティーチングの拝聴を途中で切り上げ、乗り合いタクシーにてレーのメインバザールに戻った。
宿に戻りミチコさんに説明。
「本当に!?凄いねおじさん!」 驚くミチコさん。
まさか本当に残りのジープ代を出してくれるとは思わなかったのだろう。
そして和カフェで顔合わせ。ミチコさんが旅行会社の人と知り合いなので、そこでパンゴンツォへのジープを手配することにした。
翌朝。
宿を出て空を見上げると、どんよりと曇り空である。
相変わらず今日も曇りじゃなー。
果たして今日の天候で、美しき天空の湖と名高い、紺碧のパンゴンツォは拝めることができるのだろうか。 晴天になるのを祈るのみだ。
「ミチコさん、ダライ・ラマが来てからずっと雨続きじゃないですか?」
「あ…そういえば日本でもダライ・ラマのティーチング行ったことあるんだけど、その時も土砂降りだったのぅ」
「あのじいさん雨男確定ですやん」
「雨男ですみませぬのぅ。はっはっはっはっは」 というダライ・ラマの渋い笑い声が聞こえてきそうだ。
集合場所の旅行会社の前にはメンバー全員集合していた。 停車したジープの近くには平田のおじさんとひとみさんの他に、バックパックを背負った日本人大学生の青年とイタリア人夫婦が立っている。昨日和カフェで顔合わせした後、日本人大学生の青年とイタリア人夫婦も加わり、合計7人でジープを手配することになったのだ。 結局7人集まったので、平田さんが多めに出さなくても一人1100ルピーで済んだ。
平田さん、なんか得したな……。
「皆様おはようでござる」
「みんな早いねぇ」
「初めまして。私の名前はマヌエラ。この人は私の夫よ。よろしく」(旦那さんの名前聞いたけど忘れた) と、イタリア人夫婦の奥さん。
イタリア人夫婦とはこれが初対面である。2ヶ月の有給を使ってラダックに旅行に来たそうだ。マヌエラの隣にいる夫は長身でスキンヘッドにも関わらず、優しいおっとりとした顔立ちである。
「初めまして。日本人の大悟と申します」
夫婦と握手を交わし、我らを乗せたジープはパンゴンツォへ向けて走り出した。
「すげーすげー。地層だよ。こんなのなかなか見れないよー」
車内から遠くに見える剥き出しになっている山の地層を見ては平田のおじさんが写真撮影している。 もう1ヶ月近くもラダックにいる自分としては、完全に日常化している風景なのでもうなんとも思わん。 恒例の絶景麻痺である。
「スライムと一般人が素手でガチで戦ったらどっちが勝つんですかねー」
「さすがにスライムには勝てるんじゃないですか?」
「でも初期の勇者でも「1」はダメージ喰らうわけですよ。「1」のダメージでも一般人にとってはかなり痛いと思うんですよ。スライムがみぞおちに体当たりしてきたら大抵の人は悶絶しちゃうんじゃないかなぁ」
「ドラキーはどう思います?」
「飛んでるもんなー。あいつら」
「飛んでる上に牙あるから素手だと一般人はもうドラキー相手でも厳しいと思うんですよ」
「素手は厳しいなぁ。せめて木刀でもあれば叩き落とした後即座に踏みつけば倒せそうな気もする」
「でも叩き落とすのもチョロチョロ飛び回る相手を叩き落とすのは難しいと思いますよ」
自分は外の景色には目もくれず、隣に座っている大学生の青年と「ドラクエのモンスターが実在するとしたら人間は本当に勝てるのか」という話し合いをしていた。 青年の名は陽介さんという。大学を休学して世界放浪中だそうだ。
「アークデーモンとか生身の肉体じゃ絶対勝てないでしょ。イオナズン使ってきますからね」
「自衛隊の精鋭部隊が戦車使って互角くらいかなぁ」
「戦車ってイオナズン耐えれるんですかね?」
「1発程度なら多分大丈夫な気がしますけど」
アークデーモン1体と戦車は多分互角と結論が出たところで、ジープは世界で3番目に高い峠チャン・ラ(標高5360m)に到着した。 ここで一旦休憩。
こんな標高が高い場所でもオンシーズンにはカフェが営業されており、パンゴンツォへ向かう旅行者の貴重な休憩所であり憩いの場でもある。
カフェの近くにはツーリングでパンゴンツォへ向かう旅行者の大型バイクが何台か停まっていた。
バイクでパンゴンツォまで行くのかー。いいなー。
せっかくなのでバイクに乗せてもらって記念撮影させてもらった。 あぁ……。俺がバイクの国際免許さえ持っていれば今頃あの妄想通り(ネパール旅行記 07. ハードボイルドに生きよう。まずはバイクだ 参照)になっていたかもしれないのに……。
そして休憩を終えて谷を下って行く途中のことである。
「あれ?なんか野糞してませんか?」 陽介さんが言った。
「え?」Σ(・д・)
「ほらあそこ」
横を見るとここから先にある大きなカーブを曲がりきった向こう側の道に1台のジープが停車しているのを確認できた。 ジープに隠れるように車道の反対側にある岩場の隅で、若い西洋人の女性が野糞しているのが見える。
「あ、ホントだ。野糞してる」
「我慢できなかったんでしょうね」
お腹の調子が悪いのだろうか。女性が野糞するなんて、とんでもなく猛烈な便意に違いない。
なにも恥じることはないぞ。お姉ちゃん。 俺だって野糞は海外旅行では何回もしたし、このラダックの地では遂にウンコ漏らしたからな。 好きなだけ野糞すればいい。
俺は野糞をする彼女のお尻をじっくり観察しながら、心の中で呟いた。
「ねぇなんか臭くない?ここの谷」 鼻をつまむひとみさん。
「言われてみれば確かに少し臭いますね。この谷」 陽介さんが言う。
「みんながここで野糞していくんじゃないかなぁ」 と、ミチコさん。
「じゃあこの谷の名前はウンコ谷と名付けよう」
ウンコ谷から1時間ほどすると、大きな湖が見えてきた。
「一旦ここで15分くらい車停めるぞー」 運転手がそう言って車を停める。
車から降りて湖を眺める。
あれがパンゴンツォかぁ。………思ったより青くないな。
「ミチコさん、前パンゴンツォ来た時は青かったんですよね」
「青かったよー。でもその日は快晴だったから。今日は雲が多いからそこまで青くないかもしれないのぅ」 ミチコさんが言う。
「まぁここからもうちょっと進んだ先はここよりは青いかもね」
ロッジがある場所はまだここから20分程離れた場所にある。
湖のほとりに向かい、平べったい形をした手頃なサイズの小石を拾って右手に握る。 大きく振りかぶり身体を大きく右に傾け、湖へ石を放ってみた。
「うりゃ!アンダースロー!」
石は水面を2回しか跳ねたところで水底に沈んだ。
「ありゃ?2回しか跳ねないな……」
また手頃なサイズの小石を拾って水切りをする。
「もういっちょ!」
20投ほど水切りをしてみたが、4回跳ねたのが最高記錄だった。
うーむ。久々に水切りしてみたがなかなか難しいな……。
「あなた、ナイスフォームだったわよ!」
水切りをした後にカメラを持ったマヌエラが話しかけてきた。 後で撮影した写真をメールで送ってくれると言う。
そして3時頃に今日の宿泊場所のロッジに到着。
狭い部屋に敷布団があるだけの質素な部屋だが、ただ眠るだけなのでなんの問題もない。1泊200ルピー。 夕食と朝食は別のロッジで摂る。
部屋分けは当たり前だが、俺と陽介さんと平田のおじさん。ミチコさんとひとみさん。イタリア人夫妻の3部屋になった。 できればこんなむさ苦しい男部屋じゃなく、年上のお姉さん2人に挟まれて寝たかったわ。サンドイッチしてほしかったわ。
「あぁ~。なんか頭痛いよー」
平田のおじさんが布団に横たわる。
「それ軽度の高山病ですね。車で一気に標高5000m以上の場所を超えたりしてるから」
「うぅ……。大悟君は平気なのかい?」
「俺はもう高度に慣れてますから。高山病の時は寝ないほうがいいですよ。その辺をゆっくり散歩したほうが…」
「うぅ……。それでも少しだけ寝る……」
「はぁ………」
部屋の窓際に目をやると、そこに白い布が引っ掛けられていた。 それには赤茶色のシミがべっとりと染みついている。
「……あのー、これ血だよね……」
「うん。血ですね……」
陽介さんが答える。
………恐ぇぇよッ!!
なんで血がべっとり付いた布が部屋に置いてあるんだよ!?
「曰く付きの部屋なのかもしれないですね」
いやぁぁぁああああ!!そんなこと言わないで!夜中に恐怖でおねしょしちゃうかもしれないじゃないッ!
荷物をロッジに置いて、ひとみさんと一緒に湖のほとりに向かって歩いてみた。 少し晴れ間がさしていることもあってひとみさんは日傘をさしている。何処の国に行っても、彼女は常に日傘を持ち歩いているとのことだ。 ましてここは標高4000mを超えた地。強烈な紫外線が降り注いでいる。美肌を保つ乙女には紫外線は大敵なのだ。
「日傘を持ち歩いているバックパッカー初めて見ましたよ」
「日傘は超重要やで」
そこまで紫外線を気にしてるのに関わらず、わざわざこんな標高が高い場所にやってくるなんて、明らかになんかの罰ゲームでラダックに連れてこられたとしか思えないな。
ちなみに「ちょっと相合傘しませんか?」と尋ねたら「え…やだよ」と真顔で言われショックだった(号泣)
「そういえば他の方々は何しとん?」
「陽介さんは後で来ると思います。平田さんは寝てます」
「パンゴン来とるのに寝とるんか、おじさん」
「1番張り切ってたんだけどなぁ。平田さん」
湖のほとりから見たパンゴンツォは噂で聞いたような綺麗な青色ではなく、空に浮いているたくさんの雲が水面に映っていた。どちらかと言うと、青色よりグレーに近い。
「青くはないなー。空にある雲の色じゃ」
「せやなー」
快晴ならば美しいパンゴンツォを拝見できていたと思うと残念である。
湖畔には大小さまざまなたくさんの石があるので、せっかくなので石積みをしてみた。
「ひとつ積んでは母の為、ふたつ積んでは父の為……」
ボソボソと呟きながら石を積んでゆく。 石を積んでいる最中、濃い灰色の雨雲がゆっくりと湖の上空に集まっていた。冷気混じりの透き通った風がさらさらと吹き始める。
なんか湖が三途の川に見えてきたな。(・ω・`)
ロッジのある方向に向かって歩いていると、陽介さんは湖畔で読書に勤しんでいた。
「パンゴンツォに来てまで読書かい!」
「こんな場所での読書はなかなか乙なものですよ」
そんな会話をしているうちに、低く垂れ込めるように灰色の雲が湖に覆いかぶさり、青白く輝く稲光が音もなく走った。 直後、ポツポツと雨が降り始める。
「あ~。やっぱり雨降ったか……」
雨で濡れる前に急いでロッジに戻る。
「これじゃ今日は星空は見えないかな…」 平田さんが残念そうに呟く。
日が沈むと、辺り一面真っ暗闇になり静寂に包まれる。鼓膜が捉えるのは雨粒が地面に打ち付ける音だけだ。
夜のパンゴンツォは冷え込む。雨が降っているから尚更だ。
夕食を摂った後、各々の部屋に戻り布団に寝転がる。
「雨止まないかなー。星空見たいよ……」 持参した寝袋を広げながら平田さんが言う。
「天に任せるしかないですね」 そう言いながら自分は掛け布団を手に取り、床に広げる。
しかしこの掛け布団やたら重いな……。
ずっと閉め切った空間に放置していたのだろうか、自分が使う掛け布団は水分を含んだかのように重い。
「あの、なんか小便臭くないですか?」 と、陽介さん。
「……言われてみれば、なんか臭うよね」 平田さんがスンスン鼻を嗅ぐ。
「確かになんか臭いますね…」
この臭いの元は何処からやってきているのだろう……?
………まさかっ!?
俺は恐る恐る自分の掛け布団を嗅いでみた。
臭ッ!!
これだァァァァァァァッ!! こいつが臭いの根源じゃァァァァァァァァッ!!(号泣)
「……この掛け布団から小便の臭いがします」
「ホントに!?」
「マジですか!?」
じっくり観察してみるとなんか茶黄色のシミがじんわりと染みついている。 ここに宿泊した旅行者がおねしょでもしたのだろう。白布に付着している血を見ちゃって怖くてトイレに行けなかったのだろうか。
綺麗なお姉さんの小便のシミなら興奮しないでもないが、何処ぞの誰かも分からぬ小便成分がこびりついた布団なんぞ使いたくないので、部屋の隅に丸めて放置しておいた。
平田さんが寝袋を持参しているので、余った布団を借りることにした。
歯を磨きに外に出る。
雨風が冷たいのぅ……。
口をゆすいで部屋に戻ってる途中、イタリア人夫妻の部屋の前にいた陽介さんに声をかけられた。
「大悟さーん。この部屋の電気が消せないらしいんですけど」
そう言われてイタリア人夫妻の部屋に入る。
あ、本当だ。電気を消そうにもスイッチがどこにも付いてない。
「どう?消し方分かるかしら?」
「うーん…自分たちの部屋のライトにはスイッチが付いているんだけど……。これは付いてないなぁ」
「どうしよう…。困ったわ」
困った顔をするマヌエラ。
電気がついたまま寝るのは嫌だろうな。
「よし、じゃあこれを取り外しましょう」
そう言って豆電球を手に取る。
ん…、なかなか取れないな、この電球。
豆電球の根元を掴んでくるくる回そうとするが、なかなか難しい。
んぎぎぎぎぎぎぎぎ。
「固いなーこの電球」
そう言った瞬間。
バチッ!
左手の人差し指から肘にかけて、衝撃がほとばしった。 一瞬だけだが、筋肉と骨を引き剥がすような鋭い痛みが走る。
「ギャアァァァァァァアアアアアアッ!!」
「どうしました!?」
「感電した!感電した!電流感じた!」
「うわっ!手プルプルしてますよ!」
自分の左手がブルブル痙攣している。
狼狽える俺の様子を見てマヌエラは大爆笑である。
「あはははははっ!だ…大丈夫?」
笑い事じゃねぇしッ!!
「大丈夫、大丈夫。びっくりしたけど…」(号泣)
まだ手はビリビリ痺れているが、普通に動くのでまぁ問題ないだろう。
「このまま電気つけて寝るからもういいよ。ごめんね」 と、マヌエラ。
ただの感電損じゃねぇか。
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好きなTV番組は「SASUKE」。