翌朝、ゴーキョ・ピークに登り始めた。 ロッジを出て、約2時間後、ゴーキョ・ピークに到達。標高は5360m。
ここからだと、荒涼とした景色が眼に映る。 氷河湖ドゥードゥ・ポカリはゴーキョから見るよりも青い。
本来なら 「なんて素晴らしい情景だ!感動した!」 ってなるのだろうが、重度の絶景麻痺を患っている俺は、いつも見ている景色となんら変わりないと思うだけだった。
もはや今の自分にとって、高い場所に行くという行為はただの作業に等しい。 ドラクエのレベル上げみたいなものである。 一応、ちゃんと登った証拠として、サンタさんに写真を撮ってもらう。
トレッキングも終盤に差し掛かり、チョラ・ラというトレッキング上の難所を越える日を迎えた。
トレッカーの間では、チョラ・パスと呼ばれている。 クレバスなど危険な場所もあるので、ここだけはマジで真剣に登らなければならない。
しゃべくりお姉さんのメグミさんもチョラ・パス越えをしたかったらしいが、当時は、積雪により不可能だったそうだ。
現在地のドラクナク(標高4700m)を夜が明ける前、午前4時半に出発する。 ここから、チョラ・ラの麓までは、そこまで標高は変わらない。 道というよりも、大小さまざまな岩が斜面に積み重なってできている岩山といった感じで、このトレッキング上で唯一、両手を使いながら登って行く道だ。
よっしゃ、越えるか。チョラ・パス。
峠を登り始めて20分後。
ハァハァゼェゼェ……フゥフゥ……、
トレッキングを始めてほぼ毎日歩いているので、体力と筋持久力はかなり上がっているはずだが、このルートだけは別格だ。 荷物を背負って、標高5000mを越える岩山を登っていくのは、さすがに体に堪える。酸素が足りない。
そもそも俺はアウトドア派じゃなくて超インドア派だし。 というより、今更だが超インドア派がネパールでトレッキングしてる意味が根本的に分からん。
麓から峠まで、あと半分の場所に差しかかった時、上方から叫び声が響き渡った。
「ローーーーーーーック!!」
え、マジ?
峠側から握りこぶし2個分程の石が、猛スピードで跳ねながら転がり落ちてきた。
自分の1mほど真横を石が通り過ぎていく。 ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、と音を響かせながら、あっという間に峠の麓まで転がり落ちていった。
怖ェェェ……。
ここでは、ただの石が、少しの不注意で凶器に変わる。
少し離れた場所からサンタさんが声を掛けてくる。
「大丈夫。大丈夫。問題ないです」
それから数十分後、チョラ・ラに到達。
辺り一面銀世界。
ドラクエ2のロンダルキア大地みたいである。 生憎、俺はロトの子孫ではないため、こんな場所にいれば間違いなく魔物に喰い殺される。
頂上付近で休憩をした後、また歩き出す。
4000m以上の高所では岩場が多く、バランスを崩すことがあるため、ストックは必需品である。
しかし、俺はトレッキングをする予定はなかったので、ストックなど持ち合わせていない。
道端で拾った木の棒をストック代わりに使っている。 一目惚れだった。3週間近くの付き合いだ。
写真を撮ろうとカメラを取り出した際、木の棒を手から離してしまい、そのままトレイルから離れた所にツルツルと滑っていってしまった。
あぁ、木の棒!
どうにかして木の棒を助け出したかったが、ここは何処にクレバスがあるか分からない危険地帯だ。 トレース以外の場所は歩けない。
「おーいっ!木の棒!しっかりしろー!戻ってこーいっ!」
しかし木の棒は返事をすることもなく、ピクリとも動かない。
「くそっ!待ってろ木の棒!今行くぞ!」
「どうかしましたか?」
「あぁ、サンタさん!マイ木の棒があそこに……!」
「はいはい、早く峠を越えましょう」
もうお前の冗談には付き合いきれんと言わんばかりの対応である。
サンタさん、割と薄情な人だな。
今現在も、俺が愛用していた木の棒はチョラ・ラで寂しく静かに雪に埋もれているであろう。
チョラ・パスを超えてカラ・パタールへ向かう。
来た道を振り返るとチョラ・ラが静かに佇んでいた。ここを越えるのは相当きつかった。綺麗なお姉さんに「登ったら後でイイことしてあ・げ・る」とか言われない限り絶対に登りたくない。
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超インドア派。妄想族である。立ち相撲が結構強い。
好きなTV番組は「SASUKE」。